ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』ほか

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今回は、雪が降る時期にぴったりな内容のミステリー作品をご紹介します。

ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』

あらすじ

2つの不可解な事件の発端は、謎の奇術師フレイの出現だった。

現場の1つであるグリモー教授宅では、犯人の足跡が雪上に残っていなかった。
カリオストロ通りの事件では、銃声が聞こえたのみで犯人の姿を見た者はいなかった。

姿なき殺人者の正体とはいったい?

フェル博士の密室講義

本作はギデオン・フェル博士ものの6作目。作者は不可能犯罪、とりわけ密室トリックを数多く扱ったことで知られるジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)です。

われわれ三人は生き埋めにされたことがある。逃げたのはひとりだけだった

このフレイの発言がたとえ話ではなく事実であったと、誰が想像できたでしょう? グリモー教授の過去が判明したあたりから、ぐいぐい物語に引き込まれていきました。

本筋が面白いのはもちろんのこと、かの有名な「密室講義」も登場するため、ミステリー好きにとっては要チェックの作品です。

フェル博士は多様な密室のパターンを挙げていますが、本作のトリックは合わせ技のような感じがしますね。

カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』

あらすじ

映画関係者と知り合った外交官ベネットは、ロケ候補地である〈白い僧院〉に招かれた。一行より遅れて到着した彼が別館で目にしたのは、なんと人気女優の亡骸。

人工池の上に建つ別館周辺の雪上には発見者の足跡しか見当たらない。犯人は痕跡を残すことなく、どのように移動したのか? ベネットや警察は頭を悩ませるが……。

江戸川乱歩も絶賛のトリック

ロンドン近郊の歴史あるお屋敷で起きる事件、というシチュエーションがまず魅力的。ただ「僧院」という題から受ける印象に反して、中身は恋愛関係のいざこざやスポンサーとの契約問題が絡む話であり、動機そのものは俗っぽいと言えるかもしれません。

続々と飛び出す衝撃的な証言。さらには、加害者の告白文が発見された直後に死んだはずの被害者本人から電話がくるなど、目の離せない展開が続きます。

それでいてヘンリ・メリヴェール卿が途中で「簡単」だと言っていたとおり、甥っ子のベネットらが気にしていたポイントについては見事な推理が披露されるのでスッキリ。時系列や怪しい人物の目撃談などもきれいにつながります。

それにしても卿が登場したときの安心感はすごい。口が悪いわりに意外と情に厚かったりするギャップもよいですよね。

アガサ・クリスティー『オリエント急行の殺人』

あらすじ

大雪で立ち往生したオリエント急行内で、何者かに襲われた老富豪。無残にも死体には10を超える刺し傷があった。

偶然乗り合わせた名探偵、エルキュール・ポアロは事件の調査を開始するが……。

ネタバレされる前に読みたい古典ミステリー

真冬のヨーロッパを走る豪華寝台列車、という舞台に惹かれるミステリー。

本作に加え、『そして誰もいなくなった』『アクロイド殺し』あたりは、ネタバレを目にする機会が多いクリスティー作品トップ3かもしれません。

個人的意見ですが、特に本作『オリエント急行の殺人』は危険大です。ミステリー初心者の方は、余計な情報を仕入れたりはせず、可及的速やかに本文に取りかかるようにしましょう。

また、本作は度々映画化・ドラマ化されているクリスティー作品のひとつですので、いろいろなバージョンを見比べてみるのも面白いと思いますよ。

このほか、同じくポアロもので季節が冬の作品と言えば『ポアロのクリスマス』なども有名ですね。

G・K・チェスタトン「翼ある剣」

あらすじ

金持ちの地主エールマーが養子のジョン・ストレークに全財産を遺して亡くなった。実子3人が異を唱えたことでこの遺言状は無効となったが、その後長男は自害、次男は事故死する。

残った末子アーノルドは、兄たちの死はストレークの陰謀によるものであると主張し、警察に保護を求めるが……。はたしてこれは狂人のたわごとなのか?

『白い僧院の殺人』の先駆け的作品

『ブラウン神父の不信』収録作品。被害妄想ともとれる話の真偽を確かめてほしいと警察医に頼まれたブラウン神父は、アーノルドの家に向かいました。そこでしばらく会話を交わした後、屋外で死体と鉢合わせるはめになります。

巨大なコウモリのような姿で雪原に倒れている黒マントの男。この場面の描写が妙に印象に残りました。

犯人の強烈な性格(神父に言わせれば「一種の偏執狂」)や、とっさにとった大胆不敵な行動にはぞっとさせられます。ブラウン神父がしばらく帽子掛の件を引きずったのも無理からぬことでしょう。

タイトルに「不信」とあるとおり、神父がなんでもかんでも信じるようなタイプではなかったことが幸いした事件でした。

R・D・ロングフィールド『クリスマスのフロスト』

あらすじ

せっかくのクリスマスシーズンだというのに、田舎町デントンではトラブルが絶えない。少女失踪をはじめとする事件の行方やいかに?

息つく間もなく発生する難題に名物刑事ジャック・フロストが挑む。『このミステリーがすごい!』等にもランクインしたことがある人気シリーズの第1弾。

人間味のある名物警部

男やもめで仕事中毒なフロスト警部。この設定だけ聞くとハードボイルドな主人公をイメージする方もいそうですが、実際は正反対のキャラクター。

彼の下品な面に人間味があると親近感を抱くか、モヤっとするかは人それぞれでしょう。全体的に少々毒のあるユーモアにあふれたコミカルな作風です。

作中で描かれているのは日曜から木曜までの間の出来事にすぎないのですが、とにかく問題続きでボリュームたっぷり。そういう点でも夜の長い冬向けの本と言えるかもしれません。

ちなみに英語のJack Frostは霜や厳寒の擬人化表現らしく、主人公の名前もそこから来ているのではないかと思われます。

西村京太郎『殺しの双曲線』

あらすじ

6人の男女に届いたのは、差出人不明の招待状であった。東北地方の雪深い山荘に集められた彼らは、逃げ場のない状況で事件に遭遇することに。

一方、都内では立て続けに強盗事件が発生。しかし、ある事情により警察は容疑者逮捕に踏み切れず……。

おなじみ〇〇トリック

十津川警部シリーズや鉄道ミステリーのイメージが強い西村京太郎氏。当たり前ですが、当該シリーズ以外の作品も書いています。

特筆すべきは、「この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したもの」である、と冒頭で明言している点。『三つの棺』同様、こちらも2つの事件が交錯する様が魅力のひとつです。

また、クローズドサークルの要素があり、クリスティーの『そして誰もいなくなった』を既読の方であれば、そのオマージュとして楽しむことができます。

犯人に独善的な面が見られるところも『そして~』と共通しています。ただ、犯人の最終的な処遇はずいぶん異なっており、本作の場合、刑事による痛烈な犯人批判で幕を下ろすのが印象的でした。

東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』

あらすじ

オーディションに合格し、稽古のためにペンションに集まった男女7名。今回の舞台は殺人劇である。

メンバーが1人また1人と行方をくらましていく中、本当に事件が起きているのではないか?と「生存者」は疑念を強めるが……。

変化球型・吹雪の山荘もの

吹雪の山荘もの、というのは舞台上の「設定」。現実はどうかと言えば、早春で特に天候不良もなく、逃げようと思えばいくらでも逃げられる状況です。

ただし本作では、悪天候に代わる別のハードルが用意されています。それは、逃げ出すと役から降ろされてしまう、ということ。俳優たちにとっては死活問題ですね。

よって、物理的には何の支障もなくても、心理的には場に留まらざるを得ません。この点が本作のストーリーの妙と言えるでしょう。

メイントリックに関する描写については、序盤からひっかかりを覚えていたものの、違和感の正体はつかめずじまいでした。まさかあのような展開が待ち受けていようとは、夢にも思わず……。このオチに対しては賛否両論あるようですが、私はあり派です。

なお、2024年1月には実写映画が公開されました。

倉知淳『星降り山荘の殺人』

あらすじ

「スターウォッチャー」星園詩郎のマネージャー見習いとなった和夫は、彼とともに冬の山荘を訪れることになる。そこにはUFO研究家や恋愛小説家など、個性的なメンバーが集まっていた。

交通が遮断され、外部との連絡も困難な状況下で、連続殺人事件が発生し……。

焦点はフーダニット

「猫丸先輩シリーズ」でも知られる作者が贈る吹雪の山荘もの。

少々変わった構成で、脚本のト書きのように「まず本編の主人公が登場する」「和夫は早速新しい仕事に出かける」といった要約が各章の始まりに書かれているのが特徴です。

この作品も賛否両論。個人的には「嘘はついていない、嘘はついてないんだけど、うーん……」という感想になってしまいました。

星園詩郎に対する私の第一印象は「シリーズものの探偵にしようとして失敗したような感じ」。結局、彼がフェイクの探偵役であったことを考えると、この微妙なキャラクター造形も意図的ものなのでしょうね。

横溝正史『犬神家の一族』

あらすじ

信州財界の大物・犬神佐兵衛(いぬがみさへえ)が他界した。犬神家の顧問弁護士に請われ、探偵・金田一耕助は那須湖畔にある犬神邸に赴く。

遺言状の内容を巡り一族の間に緊張が走る中、家宝の斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)になぞらえた連続殺人が行われ……。

血で血を洗う一族の抗争

『獄門島』や『悪魔の手毬唄』などと同じく見立て殺人を扱った金田一耕助シリーズのひとつ。とにかく人間関係がドロドロしています(このシリーズでは通常運転ですが)。

本作の顔とも言えるのが、不気味なマスクをかぶった「佐清(すけきよ)」。ストーリーはよく知らなくても、その存在だけは知っているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。マスクに加え、死亡時のインパクトが凄まじいので、ネタにされがちなところもありますが、彼は実はかなりかわいそうな人なのです……。

有名な市川崑監督・石坂浩二主演映画(1976年)では、波打つ水面から脚が突き出ているイメージがあります。しかし、原作の現場は凍った冬の湖。「すけきよ」が逆さになって「よきけす」、さらに半分しか見えないので「よき」=「斧」という発想です。

原作と映画、細かな違いを探してみると、新たな角度から作品を楽しめるかもしれません。

1976年の映画は良作なのですが、一部の設定が消えている点が少々残念。斧の見立てや香琴(琴の師匠)=青沼菊乃の説明はほしかったですね。

京極夏彦『鉄鼠の檻』

あらすじ

編集者の敦子と鳥口は取材のため、旅館・仙石楼(せんごくろう)を訪れる。そこには元医師の久遠寺や骨董屋の今川も滞在していた。

今川の商談相手は明慧寺(みょうけいじ)の者であったが、その僧侶が変わりはてた姿で旅館の庭に現れる。これが連続僧侶殺害事件の始まりであった……。

寺が舞台のホワイダニット

百鬼夜行シリーズの第4弾。本作初登場の今川(通称「マチコさん」)は個人的にお気に入りのキャラクターです。

事件現場は冬の箱根山中、被害者は僧侶ばかり。それだけでも雰囲気十分なのに、間に挟まれる振り袖を着た童女のエピソードがまた不気味。

そしてなんと言っても動機の特殊性に興味をそそられます。シチュエーション等に関しては、ウンベルト・エーコ作『薔薇の名前』の舞台を中世イタリアの修道院から現代日本の禅寺に移したような趣がありますね。

なお、本作にはコミカライズ作品(漫画:志水アキ、全5巻)があるのですが、内容面だけでなく、複数いる坊主頭のキャラクターを描き分ける画力の高さも大きな見所となっています。

また、2024年6月には、東京および大阪でミュージカルが上演される予定だそうです。

【番外編】シナリオ・我孫子武丸『かまいたちの夜』

あらすじ

スキー旅行でペンション・シュプールを訪れた透と真理。楽しいひと時も束の間、異様な手紙が発見されたことで、宿泊客の間に不穏な空気が漂い始める。

「こんや、12じ、だれかがしぬ」

その後、猛吹雪により陸の孤島と化したペンションで、透たちは凄惨な事件に巻き込まれていく……。

ジャンルを確立した名作ゲーム

当初スーパーファミコンで発売された『かまいたちの夜』。サウンドノベルというジャンルを確立した、と言われるほどの名作ゲームです。

シナリオを担当しているのは、『殺戮にいたる病』などで知られるミステリー作家、我孫子武丸(あびこたけまる)氏ですが、もしも本作が小説という媒体で発表されていたなら、ここまで人気になることはなかったかもしれません。

選択肢を熟考し、何度も失敗を繰り返し、手探りで事件を解決に導いていく。そうした独自のプレイ体験が得られる点こそが、本作最大の魅力であるからです。さらに、メインストーリーであるミステリー以外にも、オカルトにコメディと、多彩なルートを楽しめるので、プレイヤーを最後まで飽きさせません。

※私はアプリ版をプレイしたのですが、現在はiOS版・Android版ともに配信が終了しています。また、Wii Uソフト(ダウンロード版)の販売も、2023年3月をもって終了しました。

リメイク版について

2017年発売のリメイク版『かまいたちの夜 輪廻彩声』は、キャラクターのグラフィックがシルエットからイラストに変わった点や、声がついた点などに特色があります。

また、『ひぐらしのなく頃に』シリーズの竜騎士07氏が新規シナリオを担当したことでも注目を集めました。

※『輪廻彩声』は、CELO:Z(18歳以上対象)になっていますので、購入時は十分にご注意ください。

おわりに

今回紹介したのはミステリーでしたが、ジャンルを問わず、季節に合った作品に触れるというのは、雰囲気が出てよいものです。

天気が悪い日、外出できない日も、おうち時間を上手に楽しみましょう。