モーリス・メーテルリンク『青い鳥』

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『青い鳥』は、ベルギー出身の詩人・劇作家であるメーテルリンク作の童話劇。1911年にはノーベル文学賞を受賞しています。

あらすじ

クリスマスイブ、チルチル・ミチル兄妹の部屋に現れたのは、思いがけない客でした。彼女は妖女で、病気の娘のために幸福の青い鳥を探しているのだそうです。

ダイヤモンド付きの魔法の帽子を妖女から託されたチルチルたち。青い鳥を求めて、二人は夢幻の世界へと旅立ちます。

内容紹介と感想

本作は、ノヴァーリスの『青い花』に影響を受けて書かれたという、幻想的な物語です。ここでの青は、『青い花』同様に「あこがれ」などの象徴と言えるでしょう。

木こりの小屋―旅の始まり

チルチルとミチルは、貧しい木こりの家の子どもたち。二人の目には、お向かいの華やかなクリスマスパーティーの様子がまぶしく映ります。

この家だってお向かいに負けないくらいきれいだ、おまえたちには本当の姿が見えていない――突然現れた妖女ベリリウンヌは、そう言って魔法の帽子を取り出しました。

帽子をかぶったチルチルがダイヤモンドを回すと、家の中は一変します。醜い老女にしか見えなかったベリリウンヌは美しい王女様に変身し、質素だった家具や壁は今や宝石のようです。パンや火の精も飛び出し、犬と猫は話ができるようになって大喜びしています。

こうして実体化した精霊たち(光・パン・砂糖・火・水・牛乳)とペット二匹を連れ、チルチルとミチルは旅立ちました。

思い出の国―故人がいる場所

最初に向かったのは、亡くなった祖父母や弟妹のいる「思い出の国」。

彼らは思い出の中に生きている、つまりチルチルたちが思い出しさえすれば、これまでも会うことができたはずでした。けれど、私たち生きている人間は、そんな簡単なことさえ知らずにいることが多いのです。

この「思い出の国」は、メキシコに伝わる死者の国のイメージにどこか似ていますね。故人を偲び、話題にすること、その大切さを改めて認識させられます。

夜の御殿―封印された秘密

続いて一行がやって来たのは、「夜」の奥方の支配下にある「夜の御殿」。ここには様々な秘密を閉じ込めた扉があり、中は「幽霊」「病気」「戦争」「陰」「恐れ」「沈黙」など、不気味なものでいっぱいです。

「夜」の話によると、今は医学の進歩により「病気」が弱体化している一方、「戦争」が勢いづいているとのこと。文明がもたらした光と影が浮き彫りになる場面であり、読んでいて複雑な気分になりました。

森―動植物の反乱

森では作中一番のピンチに陥ります。木の精や森の動物たちが、人間を処刑しようと動き出したのです。何万もの親戚のカシワが木こりに切り倒された、という長老の恨みはとりわけ深いものでした。

メルヘンチックでありながらダークな展開が続くので、このあたりはとてもハラハラします。もしも私たちの身近にある木が口を利けたなら、やっぱり人間に対する恨みつらみを並べ立てるのかもしれませんね。うーん、もっと自然に優しくしなければ。

墓地―故人がいない場所

夜中の墓地でダイヤモンドを回すチルチル。しかし死者が現れることはなく、周囲は美しい花畑へと変わりました。

予想外の結果です。故人の居場所は思い出の中であってお墓の中ではない、というのは作者の死生観の反映でしょうか?

幸福の花園(1)―偽りの幸福

「幸福」たちが暮らす魔法の花園で最初に出会ったのは、「一番ふとりかえった幸福」でした。その仲間には「お金持である幸福」「虚栄に満ち足りた幸福」「ひもじくないのに食べる幸福」「もののわからない幸福」「なにもしない幸福」などがいます。彼らは豪華な衣装に身を包み、ごちそうを食べていました。

正直言って「それって本当にしあわせなの?」と思ってしまうメンバーばかりですね。しかし、どこか身に覚えのある「幸福」の形をしているため、このようにはっきり描写されるとドキッとしてしまいます。

幸福の花園(2)―本当の幸福

みんなが考えているよりずっとたくさんの「幸福」が世の中にはあるのに、たいていの人はそれを見つけないのですよ。

(メーテルリンク著、 堀口大學訳『青い鳥』(新潮文庫)より)

今度こそ真の「幸福」が近づいてきました。「子供の幸福」「健康である幸福」「両親を愛する幸福」「青空の幸福」「春の幸福」――「光」が言う通り、彼らは元々チルチルたちの近くにいたのです。

また、「大きな喜び」たちもやって来ました。ただ、これまでの「幸福」とは違い、笑顔は見られません。「正義である喜び」は、不正が改められた時にっこりしますが、その瞬間は滅多に訪れず、「正義」というものの難しさを感じさせます。「善良である喜び」は、「不幸」に寄り添える共感性を持っているがゆえに、とても悲しそうです。

喜びと悲しみは表裏一体である、という話は映画『インサイド・ヘッド』などでも取り上げられていますね。「幸福」にはいろいろな顔があることがよくわかります。

未来の王国―まだ生まれない子供たち

空色の宮殿には、これから生まれることになっている子供たちがいました。彼らはまだ涙の存在さえ知りません。それなのに、この世に生を受けた瞬間に泣くというのは何だか不思議な感じがしますね。

ここを離れて地上へ向かう時は「お土産」を持って行く決まりがあり、多くの子供たちが成長後に発明する薬や機械などを見せてくれました。

このような話を聞くと、「未来の王国」はさぞ希望に満ちあふれた場所なのだろう、と思われることでしょう。しかしながら、それは一面に過ぎません。実は「お土産」には病気や罪も含まれているのです。来年出産予定のチルチル・ミチルの弟も、三つの病気を持っており、長生きできないことが判明します。

思わず「じゃ、生まれるかいがないじゃないか」と言ってしまうチルチル。でも、本当にそう言い切れるでしょうか? よく考えてみなくてはならない問題です。

お別れ/目ざめ―しあわせの在り処

これまで見つけた青い鳥は、元いた国を離れると違う色になったり、息絶えたりしました。とうとう時間切れ、仲間たちともお別れです。

日付変わってクリスマスの朝、お母さんが寝坊しているチルチル・ミチルを起こしにきました。「幸福の花園」にいた「母の愛」はとても若々しく美しい女性でしたが、こっちのお母さんの方がずっと好きだ、と兄妹は考えます。何と言っても、いつものお母さんが一番なのです。

改めて周囲を見渡してみると、驚いたことに、家の中も外の森も昨日までと違って輝いて見えます。もうおしゃべりはできないけれど、精霊たちがいつもそばにいてくれることを兄妹が理解したからでしょう。もう魔法の帽子は必要ありません。

そして、鳥かごの中のキジバトを見ると……。

おわりに

読み直してみると、随所にシビアな内容が盛り込まれている点や、青い鳥があっけなく飛び去ってしまうラストにびっくりしました。再読による発見も多く、目から鱗が落ちる思いがします。

年齢を問わずおすすめできる名作『青い鳥』、みなさんもぜひ手に取ってみてください。