今回は『ボッコちゃん』を中心に星新一作品についてご紹介したいと思います。
星新一(1926-1997)は、小松左京や筒井康隆らとともに国内SF小説の黎明期を担った人物です。「ショートショートの神様」ともよばれており、生涯で発表したショートショートの数はなんと1000篇以上にも及びます。
作風について
国内で短編小説、それもさらに短いショートショート作家といえば、星新一。独創的なアイデアを短くまとめているからこそ、その作品群は読み手に強烈なインパクトを与えます。
先見の明を感じさせる作品も多く、現代社会の問題と重ねてあれこれ考えてしまうこともしばしばです。
「エヌ氏」などに代表されるように、星新一作品に登場するキャラクターはどこか記号的な存在で、昨今のキャラクター小説とは対極をなす作風ともいえるでしょう。
文章そのものも簡潔明瞭。それでいて星新一節といいますか、台詞回しなどが特徴的で、個性が全くないわけでもないのが面白いところ。
ついでに申しますと、作者の名前もSF作家らしさがあって好きです(本名は漢字が違っていて星親一さんですが)。作風に合ったペンネームっていいですよね。
傑作ショートショート集『ボッコちゃん』
ここでは代表的短編集『ボッコちゃん』(作者自選の50篇を収録)より、個人的に印象に残った作品を取り上げています。
『おーい でてこーい』
地上に現れた謎の巨大な穴。人々は、そこに廃棄物を捨て始め……。
その後を想像すると背筋が凍ります。
『殺し屋ですのよ』
それと悟られないように人の命を奪うことができるという女。その方法とは?
この女性、悪人には違いないのですが、頭が回るのは確かです。
『暑さ』
これから自分は罪を犯すかもしれないと男は警察官に語る。そう、こんな暑い日は……。
意味がわかると怖い話ですね。
『生活維持省』
人々の平穏無事な生活を守る「生活維持省」の役人の仕事、それは……。
最大多数の最大幸福をつきつめると、こういう社会になるのでしょうか。なんともいえないラストも秀逸。
『冬の蝶』『ゆきとどいた生活』
いずれも自動で機械が何でも行ってくれる時代のお話。
便利さが一転して不便さにつながるという皮肉。普段どおりの一日をいつまでも迎えられるとは限らないのです。
『鏡』
ある夫婦が合わせ鏡で悪魔を呼び出すことに成功した。二人は、悪魔をいじめることでストレスを発散するようになるが、その行為はエスカレートしていき……。
身近な生々しさがある分、怖いと思える一篇です。
『肩の上の秘書』
肩に乗せた鳥型ロボットが、乱雑な言葉も丁重に翻訳してくれるというユーモラスな話。
本音と建て前を実体化すると、こんな感じなんですかね。
児童書・YA文学における展開
子ども向けのシリーズとしては、講談社青い鳥文庫や角川つばさ文庫、理論社のYAセレクション(全10巻)などで傑作選が刊行されています。
子どもも読みやすい話が多いのが星新一作品のよいところです。最初に作品に触れたのが教科書だったという方も多いのではないでしょうか。
映像化作品の例
世にも奇妙な物語
何度か原作として採用されています。
上に挙げた作品の中では『おーい でてこーい』(番組内でのタイトルは『穴』)や『殺し屋ですのよ』。また近年では、2024年に『ああ祖国よ』(『おみそれ社会』収録)が映像化されました。
星新一 ショートショート
パイロット版にあたる『星新一ショートショート劇場』を経て、2008年度にNHKでレギュラー放送されたシリーズです(10分番組で1回につき3作品登場)。
舞台劇風であったりアニメであったりと、作品ごとにさまざまな表現手法がとられており、制作者の演出の妙が魅力となっています。
星新一の不思議な不思議な短編ドラマ
同じくNHKで2022年に放送されたドラマ(15分番組で全20回)。
『ボッコちゃん』『生活維持省』『処刑』など18作品が実写化されました。
おわりに
初めて星新一作品に触れるのであれば、やはり『ボッコちゃん』からがよいだろうと思い、紹介させていただきました。これを読めば、有名どころはだいたい押さえられるでしょう。
余談ですが、私が「好きな作品」を一つ選ぶなら、それは『鍵』(『妄想銀行』収録)です。アイデアやセンスが「優れた作品」であれば他のものを挙げますが。「こういう人生もありかな……いや、人生ってこういうものじゃないかな」と思わせてくれるお話です。
今回の記事で興味がわいた方も、ぜひお気に入りの作品を探してみてください。