劇団四季ミュージカル『キャッツ』感想

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十猫十色の物語

『キャッツ』は、イギリスの詩人T・S・エリオットの『キャッツ―ポッサムおじさんの猫とつき合う法』(Old Possum’s Book of Practical Cats)を原作とするミュージカルです。

実際に観劇したのはずいぶん前になってしまいますが、今回はその時のレポートを書きたいと思います。

あらすじ

満月の夜、都会のゴミ捨て場に集う猫たち。彼らは歌い踊り、各々アピールをしていく。今宵は年に一度の「ジェリクル舞踏会」、天上に上る猫を決める大切な日である。

人間に飼いならされることなく、喜びに満ちた日々を強く生きる。そんなジェリクルキャッツの物語。

内容紹介と感想

舞台のギミック

物語は、舞台と客席が一体となって進んでいきます。

空き缶や長靴、テレビなど、ゴミ捨て場にあるものはどれもネコ目線で特大サイズ。このため、席に着いた時点で不思議な世界に迷い込んだような気分に。

オープニングから客席も巻き込んで縦横無尽に動き回るジェリクルキャッツ。猫のしなやかな動きが見事に再現されています。照明を使った演出も巧みです。

すばやい身のこなしによるダンスと歌が次々と披露されていくので、一瞬も目を離すことができません。非常にテンポの良いストーリーラインとなっています。

個性豊かな猫たち

よそ目には一列一体、平等無差別、どの猫も自家固有の特色などないようであるが、猫の社会に這入って見るとなかなか複雑なもので十人十色という人間界の語(ことば)はそのままここにも応用できるのである。

(夏目漱石『吾輩は猫である』より)

猫だって人間と同じ。いろいろな容姿、いろいろな性格、いろいろな生き様があるのです。風変わりな名前も、誇り高き猫にとっては特別なもの。

ここでは、特に印象に残ったジェリクルキャッツをご紹介します。

マンカストラップ

オープニングから目立つリーダー格の猫。舞台と客席をつなぐ橋渡し的存在です。

ヴィクトリア

ソプラノの歌声とダンスが美しい可憐な猫。 夜空の下、白い容姿がひときわ目を引きます。

オールドデュトロノミー

ジェリクル舞踏会の主催者である長老様。哲学者めいたところのある、しっぽが長いおじいちゃん猫です。動きも全体的にゆったりしていて貫禄があります。…でもマキャベティにさらわれた後、通路をハイスピードで移動するのが目に入ってしまい、くすりとさせられました。

ジェニエニドッツ

テレビの中から登場するおばさん猫。昼間は眠ってばかりでぽっちゃり体系。しかし夜は身軽なオレンジ色の衣装に変身。ネズミたちとにぎやかにダンスするギャップが面白い。

ラム・タム・タガー

ジェリクルキャッツのなかでも特にあくの強いキャラクター。客席からの連れ去り行為にはびっくりしました。あまのじゃくな性格ですが、そこがかえって女性陣からは人気のようです。雌猫たちが彼にうっとりするシーンでは、客席から笑い声が上がっていました。

バストファージョーンズ

丸々とした体形がユーモラスな紳士猫。ベルベット風の衣装で、いかにもお金持ちといった感じです。スプーンや食材を持って踊る様が楽しい美食家。

マンゴジェリーとランペルティーザ

どこか憎めない小悪党。明るい曲にあわせたアクロバティックなダンスに魅了されます。運動神経抜群のカップルで、お気に入りのキャラクターたちです。

アスパラガス

現在の老猫アスパラガスと、彼の過去の当たり役グロールタイガーの演じ分けが見どころ。戦うシャム猫軍団は、エキゾチックな衣装とダンスがすてきでした。

スキンブルシャンクス

鉄道を愛する、働き者の猫。車掌さんモードの黒い帽子とベストがかわいい。このパートもにぎやかで楽しかったです。

マキャベティ

恐怖の犯罪王。大きな笑い声と赤いライトを使った演出に、登場するたびにドキッとしてしまいます。ディミータとボンバルリーナが彼に向けた歌は雰囲気がありました。

ミストフェリーズ

小柄な手品猫。バレリーナのように回転を繰り返す様は圧巻の一言。マジックの演出も華やかです。
猫たちが客席をまわる一幕があるのですが、私が握手できたのは彼とリーダーでした。握手できるかどうかというのは席の位置にもよるのでしょうが、運がよかったと思います。

ル・カイン氏の絵本『魔術師キャッツ』でも、彼のファンタスティックな活躍が描かれており、そちらもおすすめです。

グリザベラ

ほかの猫たちから距離を置かれている孤独な女性。彼女に近づこうとするのは、無垢な赤ちゃん猫のシラバブだけ。特に二度目に歌う「メモリー」は、熱が一層こもっていると感じました。彼女の救済と再生へ向かう過程は、舞台『キャッツ』において欠かせない要素となっています。

おわりに

原作が小説ではなく詩集であることもあり、群像劇としての側面が強い『キャッツ』。しかしグリザベラの存在がちょうどよいスパイスとなって、ひとつの物語としてのまとまりが出ています。

劇場という空間で一期一会の体験ができる舞台は、映画やテレビドラマなどとはまた違った魅力がありますね。ジェリクルキャッツが歌い踊る姿に笑ったり共感したりしながら、楽しく見ることができました。