今回は、SFやファンタジーの要素を含む異色ミステリーを3点ご紹介します。
〈ループ×ミステリー〉西澤保彦『七回死んだ男』
あらすじ
ときどき同じ1日を9回繰り返す「体質」を持つ高校生、久太郎(通称キュータロー)。新年会で祖父宅に宿泊した際も、この「体質」によりループ状態に陥ってしまった。そのさなか、祖父が事切れた状態で見つかり、親戚一同に動揺が走る。キュータローは、ループを利用して祖父を助けようとするが……。
内容紹介と感想
映画『恋はデジャ・ブ』から着想を得たという本作。ループ現象を取り入れたSFミステリーです。最初にきちんとルールが提示され、その範囲内で物語が展開されるため、アンフェアな点はありません。
あの手この手で祖父を守ろうとするキュータローですが、いくつもの難関が待ち受けていました。ある人物の行動を制限しても、新たな刺客、もとい身内が容疑者として浮上するのです。
タイムトラベル作品などでよく見られる設定ですが、このループ現象においても修正力が働きます。一度道を外れたら、しつこいくらい元のルートに戻そうとするカーナビみたいで嫌ですね。
作中ではそこまで厳しく追及されていないとはいえ、とんでもないことばかりしている親戚たち。キュータローの意見などを受けてようやく反省しつつ、大団円へと向かいます。そもそもタイトルにあるのが7回で、繰り返すのは9回ですので、最後に助かるのは間違いないだろうと想定して読める安心設計です。
ところが、最後の最後にひっかかりを覚えるキュータロー。それはいったい……? 設定をうまく利用したどんでん返しが待ち受けており、途中わいた疑念もエピローグで見事に氷解します。
〈魔術×ミステリー〉ランドル・ギャレット『魔術師を探せ!』
魔術が発達した架空のヨーロッパを舞台に、捜査官ダーシー卿と上級魔術師ショーンの活躍を描く中編集。
ミステリーとファンタジーの組み合わせってどうなんだ、と思われる方もいるかもしれませんが、これがちゃんと成立しているのです。魔術が存在するからといって、なんでもありという世界ではありません。現代の科学捜査の代わりに魔術が使われているイメージをしていただければよいと思います。
私が一番面白いと思ったのは、主観と客観の違いについて扱ったエピソード『その眼は見た』。魔術が使えるがために、かえって事件が複雑化している面が見られ、意表をつかれました。
同シリーズ『魔術師が多すぎる』も読んでみたいのですが、こちらは新版が出ていないようですね。
〈ゾンビ×ミステリー〉山口雅也『生ける屍の死』
あらすじ
舞台はアメリカの田舎町。各地で死者が甦るという奇怪な現象が相次ぐ中、バーリイコーン家にも不穏な空気が漂っていた。そんな状況下で、予期せぬ最期を迎えた主人公グリン。「生ける屍」と化した彼は、犯人捜しを開始する。
内容紹介と感想
葬祭業を営む一族の中にあって、パンクファッションに身を包み、やや浮いた存在の主人公。根は真面目で哲学的な考え方を持っており、そんなギャップが印象的なキャラクターです。
グリンは、事情を隠して探偵活動を進めるにあたり、自らの体にエンバーミング(遺体の消毒や保存処理のこと)を施してもらいます。というのも、甦るとはいえ肉体的には亡くなった状態のままだからです。意識があって手足を動かせるのにもかかわらず、肉体の崩壊・腐敗は止まらない、というのが本作の設定の怖いところ。
死者が甦る状況で、あえて人に手をかける動機は何なのか。読者はこの最大の謎に着目しつつ、ページをめくることになります。
おわりに
どの作品もミステリーとしては変わった設定ばかりですが、そこを最大限に活かして謎解きに組み込んでいます。現実にのっとった一般的なミステリーももちろん面白いですが、こういった作品を読んで新境地を開拓してみるのもよいのではないでしょうか。