西澤保彦『七回死んだ男』ほか

ミステリー・サスペンス
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今回は、西澤保彦『七回死んだ男』を中心に、SFやファンタジーの要素を含む異色ミステリーをご紹介します。

〈ループ×ミステリー〉西澤保彦『七回死んだ男』

あらすじ

ときどき同じ1日を9回繰り返す「反復落とし穴」にはまる特異体質を持つ高校生、久太郎(通称キュータロー)。新年会で祖父宅に宿泊した際も、この体質によりループ状態に陥ってしまった。

そのさなか、祖父が事切れた状態で見つかり、親戚一同に動揺が走る。キュータローは、ループを利用して祖父を助けようとするが……。

内容紹介と感想

映画『恋はデジャ・ブ』から着想を得たという本作。ループ現象を取り入れたSFミステリーです。最初にきちんとルールが提示され、その範囲内で物語が展開されるため、アンフェアな点はありません。

あの手この手で祖父を守ろうとするキュータローですが、いくつもの難関が待ち受けていました。ある人物の行動を制限しても、新たな刺客、もとい身内が容疑者として浮上するのです。

タイムトラベル作品などでよく見られる設定ですが、このループ現象においても修正力が働きます。一度道を外れたら、しつこいくらい元のルートに戻そうとするカーナビみたいで嫌ですね。

作中ではそこまで厳しく追及されていないとはいえ、とんでもないことばかりしている親戚たち。キュータローの意見などを受けてようやく反省しつつ、大団円へと向かいます。

そもそもタイトルにあるのが7回で、繰り返すのは9回ですので、最後に助かるのは間違いないだろうと想定して読める安心設計です。

ところが、最後の最後にひっかかりを覚えるキュータロー。それはいったい……? 設定をうまく利用したどんでん返しが待ち受けており、途中わいた疑念もエピローグで見事に氷解します。

〈入れ替わり×ミステリー〉西澤保彦『人格転移の殺人』

あらすじ

カリフォルニア州で大地震が発生し、ハンバーガーショップの地下に逃げ込んだ男女7名。そこはなんと人格の転移を起こす特殊な空間、〈入れ替わりの環(スイッチ・サークル)〉であった。

死亡した1名を除いた残り6名は、転移装置を研究する博士らによって、当面軟禁状態に置かれることになってしまう。

しかし博士ですら予期しない事態──外部から隔絶された環境にいた彼らの間で連続殺人事件が起きたのだ。犯人は誰の人格で、目的はいったい何なのか?

内容紹介と感想

1997年の「このミステリーがすごい!」で国内編第10位にランクインした作品。話の核となっているのは、映画『転校生』などでもおなじみの人格の入れ替わりですが、それをミステリーと組み合わせたというのが目新しい。

作中の転移のタイミングはランダム。いつ何時入れ替わるか予想できない以上、自分の元の体を傷つけたり、自分の人格が消滅したりする危険を冒すメンバーがいるはずはない……。本来殺人事件なんて絶対にありえない状況です。

しかし、それが起きた。目まぐるしく転移が起きる中、考える暇もなく事件パートが進行するため、読んでいて非常にハラハラしました。

推理パートでは、フーダニットとホワイダニットの両方がポイントとなります。

〈魔術×ミステリー〉ランドル・ギャレット『魔術師を探せ!』

魔術が発達した架空のヨーロッパを舞台に、捜査官ダーシー卿と上級魔術師ショーンの活躍を描く中編集。収録作品は『その眼は見た』『シェルブールの呪い』『青い死体』の3篇。

ミステリーとファンタジーの組み合わせってどうなんだ、と思われる方もいるかもしれませんが、これがちゃんと成立しているのです。

魔術が存在するからといって、なんでもありという世界ではありません。現代の科学捜査の代わりに魔術が使われているイメージをしていただければよいと思います。

私が一番面白いと思ったのは、主観と客観の違いについて扱ったエピソード『その眼は見た』。魔術が使えるがために、かえって事件が複雑化している面が見られ、意表をつかれました。

同シリーズ『魔術師が多すぎる』も読んでみたいのですが、こちらは新版が出ていないようですね。

〈ゾンビ×ミステリー〉山口雅也『生ける屍の死』

あらすじ

舞台はアメリカの田舎町。各地で死者が甦るという奇怪な現象が相次ぐ中、バーリイコーン家にも不穏な空気が漂っていた。

そんな状況下で、予期せぬ最期を迎えた主人公グリン。「生ける屍」と化した彼は、犯人捜しを開始する。

内容紹介と感想

葬祭業を営む一族の中にあって、パンクファッションに身を包み、やや浮いた存在の主人公。根は真面目で哲学的な考え方を持っており、そんなギャップが印象的なキャラクターです。

グリンは、事情を隠して探偵活動を進めるにあたり、自らの体にエンバーミング(遺体の消毒や保存処理のこと)を施してもらいます。というのも、甦るとはいえ肉体的には亡くなった状態のままだからです。

意識があって手足を動かせるのにもかかわらず、肉体の崩壊・腐敗は止まらない、というのが本作の設定の怖いところ。

死者が甦る状況で、あえて人に手をかける動機は何なのか。読者はこの最大の謎に着目しつつ、ページをめくることになります。

〈悪夢×ミステリー〉小林泰三『アリス殺し』

あらすじ

少女アリスの周りは変人だらけ。時計を持ったチョッキ姿の白兎、蜥蜴(とかげ)のビルに眠り鼠──大学生の栗栖川亜理(くりすがわあり)は、最近奇妙な夢ばかり見ている。

ある日、〈不思議の国〉でハンプティ・ダンプティが墜落死した夢を見た直後のこと。亜理の大学でも、玉子(たまご)というあだ名で呼ばれている研究員が屋上から転落する事件が発生した。さらに、2つの世界で類似した事件が続き……。

内容紹介と感想

〈メルヘン殺し〉シリーズの1作目。あの『不思議の国のアリス』をモチーフにしているだけあって、とんちんかんなやり取りのオンパレードです。

帽子屋と三月兎が捜査担当という時点で嫌な予感しかしない〈不思議の国〉サイド。対するこちら側の世界でもクセの強いキャラクターがたくさん登場します。とりわけ井森くんはいい味出してました。

そして何と言っても斬新なのが、2つの世界の死がリンクしているという設定です。ダークメルヘンとミステリーをうまく融合させた驚愕の真相が読者を待ち受けています。

ただ、ひとつ難点を挙げると、被害者に関する描写が逐一グロテスクなのが個人的にはきつかったです……。

〈ロボット×ミステリー〉アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』

本作は、人間の刑事と相棒のヒューマノイド・ロボットが宇宙人殺害事件に挑むSFミステリー。

〈ロボット工学三原則〉を盛り込んだうえでの犯人捜し、人間とロボットが共生できる社会の模索など、SFとミステリーの両面から物語を楽しむことができます。

詳しくは下記の記事をご覧ください。

なお、ホーガンの『星を継ぐもの』もSFミステリーの傑作として名高く、おすすめです。

ここで紹介した他の作品とは異なり、殺人事件等の犯罪を扱った推理小説ではありませんが、宇宙規模のスケールの大きい謎が提示されるところが魅力となっています。

おわりに

どの作品もミステリーとしては変わった設定ばかりですが、そこを最大限に活かして謎解きに組み込んでいます。

現実にのっとった一般的なミステリーももちろん面白いですが、こういった作品を読んで新境地を開拓してみるのもよいのではないでしょうか。