三谷幸喜脚本『12人の優しい日本人』

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『12人の優しい日本人』は、東京サンシャインボーイズの舞台をもとにした映画。公開は1991年ですから、2009年に裁判員制度が始まるよりずっと昔の作品です。当時の日本に陪審員制度があったら、という架空の設定に基づいて物語は進んでいきます。

あらすじ

ごく普通の老若男女12人が陪審員となり、会議室に集合するところから物語は始まる。

当該事件の被告人は、元夫をトラックに向かって突き飛ばして殺害したという嫌疑をかけられていた。

当初は無罪でまとまりかけていたものの、彼らの議論は予期せぬ方向に進んでいく。計画犯罪なのか、それとも……?

主な登場人物

  • 陪審員1号(塩見三省):場を取り持つ陪審員長。自身の意見はあまり言わないのだが……。
  • 陪審員2号(相島一之):生真面目なメガネの男性。彼の主張により話し合いが続けられることになる。
  • 陪審員3号(上田耕一):甘党の中年男性。議論の場ではストレスを感じてしまうタイプ。
  • 陪審員4号(二瓶鮫一):年配の男性。温厚そうな人物だが、無罪という主張は譲らない。
  • 陪審員5号(中村まり子):スーツ姿の女性。やたらとメモばかりとっている。
  • 陪審員6号(大河内浩):多忙なビジネスマン。早く議論を切り上げて仕事に戻りたい様子。
  • 陪審員7号(梶原善):江戸っ子風の男性。すねて途中議論を抜けることに。
  • 陪審員8号(山下容莉枝):ふわふわした雰囲気の若い主婦。場に流されやすい。
  • 陪審員9号(村松克己):初老の男性。議論好きで、手厳しく相手陣営を攻める。
  • 陪審員10号(林美智子):おとなしい年配の女性。事件に何かしらのひっかかりを覚えている。
  • 陪審員11号(豊川悦司):派手な服の若い男性。前半は議論に消極的であったが……。
  • 陪審員12号(加藤善博):何かと口をはさんでくる調子のよい男性。

内容紹介と感想

会話劇の魅力

上記には「主な登場人物」と書きましたが、そもそも陪審員以外には守衛とピザ屋のお兄さんしか出てきません。

物語の大部分は会議室で展開され、密室劇としての面白さがあります。本名は出てこなくても、12人それぞれに見せ場があり、個性が確立されているのです。

名作『十二人の怒れる男』のオマージュであるため、元ネタを知っていればピンとくるシーンも。もちろんオリジナリティも存分に発揮されており、軽やかなピアノのBGMとともに幕が上がるあたり、『十二人の怒れる男』との雰囲気の違いを感じさせます。

会議は踊る

冒頭、陪審員たちはなんとなく無罪で一致。「だって、被告人はまだ若いし美人だし、小さな子どももいるし、かわいそうでしょ?」というノリで即解散しかけます。しかし、2号がきちんと話し合うべきであると主張し、会議は続くことになりました。

しかし真面目一辺倒の『十二人の怒れる男』と違って本作はコメディ。
飲み物(終盤はピザも)を注文するのに盛り上がったり、ダヨーンのおじさんの落書きをする人がいたり……。

また、議論に関しても順調とは言いがたい。
メモ魔の5号は、メモした内容をそのまま読み上げるだけで、これといって自分の主張があるわけではない。4号は、無罪を支持する理由を「フィーリング」などと言い出す。1号は、無罪にこだわる気持ちはわかるけれど、考えることを放棄している。完全な私情を持ち込む人もいる。

「1人の人間の人生がかかっているのにそれでいいのか?」と思いつつも、12人の言動が笑いを誘います。途中のぐだぐだも含めて、そこが日本人的といえば日本人的。タイトルの「優」は、優柔不断の「優」だったのだろうか、なんて考えてしまいます。

意外な結末へ

それまで議論に深くかかわってこなかった11号。ねばる無罪派に協力を申し出た彼が雄弁になるところから話は大きく動きます。ちなみに11号役は、若かりし頃の豊川悦治氏です。

無理やり理論をこねくり回しているうちに、思いもよらない視点が出てくるなど、二転三転するストーリー。本作はコメディとミステリーの要素を両立させており、後半のひねりの効いた展開には驚かされます。

おわりに

お金をかけたセットなんてなくても面白い映画は撮れる、という例の1つです。

裁判を扱った作品は難しそう、と感じる方が多いかもしれません。しかし、本作は日本が舞台のコメディですので、非常になじみやすいつくりになっています。本作を見て興味がわいたら『十二人の怒れる男』に手を伸ばしてみるというのもよいですね。

また、比較的新しい作品では、冲方丁『十二人の死にたい子どもたち』や浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』などが、『十二人の怒れる男』の系譜といえるのではないかと思います。

これらの作品で密室劇・会話劇に興味を持ったという方については、コメディ要素の強さが気にならないのであれば、『12人の優しい日本人』も楽しめるのではないでしょうか。