ラピュタ(飛島)ほか
複数の国を旅する第3篇では、宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』の由来となっている島も登場します。
空飛ぶ島ラピュタ
いつも上の空の男、浮気性の女
1707年、ガリヴァは海賊に襲われた後、通りすがりの飛島(浮島)ラピュタの住人に救助されました。皮肉まじりに描写されているラピュタ人のモデルは、ニュートンほか当時の科学者だそうです。
彼らは思索にふけって目の前のことをおろそかにしがち。そのため、同行している「たたき役」に口や耳をたたいてもらうことで、話し相手の存在を思い出したり、事故を回避したりしているといったありさまなのです。
数学や音楽を重視し、天体に変動はないかという不安におびえる男たち。対して、元気いっぱいの女性陣は外国人が大好きで、家出してそれっきりなんてことも。
日照権侵害、さらに…
ラピュタにまつわる話で衝撃的なのは、地上にある領土に対する扱い。属国で反乱が起きると、まずその真上に島を停止させます。当然、地上は太陽や雨の恵みを得られないので大打撃。これだけでも相当えげつない。
しかし、上から投石する、さらには島を落として辺り一帯を一掃するという最終手段もあるため、日照権侵害はまだ穏便な方だというのですから、信じられません。
貧乏学園都市ラガードー
続いて、ラピュタ王の支配下にあるバルニバービの首都ラガードーへ。肥沃な土地があるようなのにまるで穀物が生えておらず、国民が貧困にあえいでいるという惨状を、ガリヴァは奇妙に思います。
話を聞けば、約40年前にラピュタかぶれの男たちがラガードーに学士院を設立し、それ以来国を挙げて身にならない研究に打ち込んできたとのこと。
学問が実用的かつ即効性のあるものばかりである必要はないでしょうが、ここまで行くと本末転倒、さすがに疑問を感じてしまいます。
学士院で行われている研究はめちゃくちゃなものばかりですが、問題と証明を書いた煎餅を食べることでその内容を理解しようとする試みには少々興味を引かれました。『ドラえもん』のアンキパンのような発想がこの時代にもあった……?
魔法使いの島グラブダブドリッブ
グラブダブドリッブという小島には、魔法使いの一族が住んでいます。降霊術を使う長の家では、亡霊たち(各人の呼び出し時間は24時間限定)が召使として働いていました。
長の厚意でさまざまな偉人を召喚してもらえることになったガリヴァ。
しかしその結果、ホメロスやアリストテレス本人と顔を合わせた注釈家が恥をかくのを目の当たりにしたり、いかに真実が歪められて後世に伝えられているかを知ったり、昔の人の雄姿を見て人類の退化を感じたりと、やたら幻滅するはめになってしまいます。
実際問題、勝者側に都合よく書かれた記録というものも存在するようですし、本当に死者と会話ができたなら、歴史の教科書はたくさんの訂正を迫られることになるのかもしれませんね。
不死人間がいる国ラグナグ
不老を伴わない不死
ラグナグ人の中には、ごくまれに不死人間「ストラルドブラグ」が誕生することがあります。特徴は、左眉の上に円形のあざがあること。
もし自分が不死だったら、こんなふうに生きたい、と理想を語るガリヴァですが、地元の人間には一笑に付されてしまいます。
というのも、ストラルドブラグは不死であっても不老ではないため、老化で多くの問題を抱えるようになるからです。
生ける屍
時が経つにつれストラルドブラグの性格は気難しくなり、若者だけでなく普通に死を迎えることのできる老人にも嫉妬するようになります。
記憶力も衰えていくため、ガリヴァが想像したような歴史の生き証人や博覧強記の学者としての役割は期待できません。
80歳以上ともなると法律上の扱いは死人同然で、少額の手当で生活費を賄うことになります。
超高齢社会となりつつある現在、読んでいて複雑な気分になるラグナグ編。他の多くの物語で不死と不老がセットで登場するのは無理からぬことなのでしょうね。
鎖国時代の日本
意外なことにガリヴァは日本にも寄っています。作中で日本はラグナグと同盟関係にあるという設定なのです。
オランダ人のふりをしたガリヴァは、どうにか絵踏みを回避し、長崎経由でヨーロッパへと帰路につきます。
※次ページでは第4篇(馬の国)を紹介します。



