あらすじ
「たまにはかわったところもいいもんだぞ。」
お父さんが昔世話になった人がいるという「霧の谷」を訪ねてきたリナ。地方の小さな駅までやって来たものの迎えが現れず、仕方なく山道を進んでいきます。
気づけば、お父さんの知り合いがくれたピエロのかさに導かれるように、霧の向こうの町にたどり着いていました。 あらゆる季節の花が咲き乱れ、ケンタウロスや小鬼が行きかう不思議な場所。そんな「めちゃくちゃ通り」で、リナは働くことになります。
メインキャラクター:霧の谷で暮らす人々
リナ
小学6年生。ぽっちゃり体形の女の子で、ポニーテールがトレードマーク。自分にできる仕事なんてないと思い込んでいましたが、霧の谷で過ごすうちにたくさんの発見をしていきます。
ピコットばあさん
下宿・ピコット屋敷の主人。髪の毛を大きく結い上げた、小柄なおばあさん。モットーは「働かざる者、食うべからず」、特技は他人の揚げ足取りです。
イッちゃん
大きな鼻をした発明家。自室には春夏秋冬に対応したストーブが4つ設置されています。
ジョン
腕の良い陽気なコック。彼の料理は疲れが吹き飛んでしまうほどのおいしさです。
キヌさん
優しい笑顔の女性で屋敷の洗濯・掃除担当。なぜかいつも通りの方を気にしています。
ジェントルマン
緑色の目をした金色のネコ。孤独を好み、大きな体と知性を持つミステリアスな存在。
ナータ
本屋さん。そそっかしいところがあり、言いたいことを一気にまくし立ててしまうタイプ。
トーマス
船具店を営む無口な男性。他人が自分の生活に干渉することが嫌なようです。
シッカ
温厚な性格のせともの屋店主。商品の中には魔法をかけられた元人間もいるとのこと。
マンデーとサンデー
おもちゃ屋さんの父子。ともに大の甘党。息子がお面をつけっぱなしの理由とは……?
トケ
お菓子屋さん。彼女の作るお菓子はおいしいだけでなく太らないという逸品です。
内容紹介と感想
リナ、霧の谷へ/ピコット屋敷という下宿
白ウサギならぬピエロのかさを追いかけて来てみれば、そこは不思議な世界。東北の片田舎からいきなり石畳が敷かれた洋風の町へ移動するのですから、そのギャップにびっくりします。
ピコット屋敷はあくまで下宿なので、親からもらったおこづかいではなく、自分で生活費を稼ぐように言われるリナ。ピコットばあさんの口調はきついですが、わりと筋は通っているあたりが悔しいところですね。
ピコットばあさんの意地悪にめげそうになりながらも、親切なイッちゃんやジョンと仲良くなったことでリナは気を取り直します。
癖の強い人だらけのめちゃくちゃ通り。仕事先では一体何が待ち受けているのでしょうか。
リナ、はじめてはたらきにでる
リナの初仕事は、ナータの店での本の整理でした。本の海に悪戦苦闘していると、予備校生が一人ふらりと迷い込んできました。彼は吸い寄せられるようにとある詩集に手を伸ばします。
おしゃべりなナータからは重要な話をたくさん聞くことができました。
霧の谷の人々は魔法使いの子孫であること。町はいろいろな場所とつながっていること。町を本当に必要としている人に道が開かれること。
不思議な話ばかりです。けれど一度この町に身を置いたなら、どれも自然と受け入れられるのでしょう。以後の体験からもリナはそれを実感することになります。
バカメとトーマスのいる店
貸しっぱなしの本を回収するべく、リナはトーマスの店へ向かいます。そこには、口の悪いオウムのバカメもいました。
バカメと言い争いになるリナ。彼女、意外と気が強いですよね。でも、ほめるときは素直にほめ言葉を口にするし、相手の気持ちを考えて反省できる子でもあります。
わたしたちは、おたがいをよく知らないから、こわいのかもしれない。正面からぶつからないで、遠くから見ているだけだから。リナのように、とびこんでいったほうがいいんでしょう。
ケースバイケースのところもあるでしょうが、イッちゃん、いいこと言います。
次の仕事場の主人であるシッカも、第一印象は陰気な人でしたが、普通におしゃべりするようになってみればとても穏やかないい人でした。よく知りもしないのに勝手にイメージをふくらませてこわがっているというのは、実生活でもあることです。私もリナにならって反省。
魔法の手助け/王子さまというものは
リナとシッカがまったりお茶を飲んでいると、とある国のお后さまが大あわてでやってきました。仙人によってせとものに変えられた王子がこの店にいるというのです。
わがままな王子さまと大人しいトラのタマが登場。
最初は横柄な態度をとっていた王子ですが、リナから問題点を指摘されたり、直接的に人の役に立つことができたりと新鮮な気分を味わいます。リナはリナで、王子の置かれている環境について考えることに。
結局のところ、王子は当初のリナといっしょだったのでしょう。今までチャンスがなかっただけ。これからはもっといろいろなことを考えて行動し、成長していけると思います。
お面をとらない男の子
続いての仕事は、マンデーの店でのけん玉づくり。彼が使う色は、六月の風の色や山の湖の色など、すてきなものばかりです。なかでもリナのお気に入りは、西に沈む太陽の色。周りの世界に目を向けてみれば、単にピンクや青といった一言では言い表せない、美しい色があふれているものなのですね。
さて、甘いものの食べ過ぎで虫歯になってしまったマンデーとサンデー。お母さん以外がお面を外すのを嫌がるサンデーには治療ができません。行方不明のお母さんははたしてどこにいるのでしょう。
おみやげ
リナのおかげでマンデー家は無事元通りになりました。しかしその直後、リナはピコットばあさんから帰りの切符を渡されることに……。
町のみんなかがくれたおみやげは、これまでの思い出がよみがえってくるすばらしいものでした。喜びで胸がいっぱいになったリナは、元気よく帰路につきます。
『霧のむこうのふしぎな町』と『千と千尋の神隠し』
本作は宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』に影響を与えたといいます。もっとも内容がずいぶん異なるので、言われてみれば似ている要素もあるかな、という程度のように思われますが。
個人的に『千と千尋の神隠し』の湯屋の場合、成長の通過点のひとつであって、二度とこの世界に戻ることはないように感じます。
一方、霧の谷の町は、ナータの話にもあったように世界中どことでもつながっています。今回リナは正規ルートでお呼ばれした格好ですが、ピエロのかさがなくても、リナが人生において町を必要とする瞬間があれば、再び訪れることができるのです。リナの、そして私たちのもうひとつの居場所、それが「めちゃくちゃ通り」なのでしょう。
とはいえ、湯屋とめちゃくちゃ通り、どちらもそこでの体験が子どもの心の糧となっているという点ではやはり共通したところがあるのだと思います。
愛蔵版について
青い鳥文庫さんから新装版が出ている本作ですが、タケカワこう(竹川功三郎)氏の挿絵を収めた愛蔵版も存在します。『霧のむこうのふしぎな町』『地下室からのふしぎな旅』『天井うらのふしぎな友だち』の3作品をまとめたものです。
新装版のイラストもかわいらしいですが、タケカワ氏による以前の挿画がなじみ深いという方も多いことでしょう。やはり根強い人気があるからこその愛蔵版だと思います。私も、思わず霧の中に吸い込まれそうになるあの表紙が大好きでした。気になる方はチェックされてはいかがでしょう。
おわりに
私たち普通の人間と同様、霧の谷の住人にも困ったところや欠点はあります。でも、みんな愛すべき人々です。それはピコットばあさんでさえ例外ではありません。
本を開きさえすれば、私たちはいつでもどこでも、そんな彼らに会うことができるのです。
この夏、あなたも不思議なファンタジーの世界に足を踏み入れてみませんか。