今回紹介するのは、フランスの作家サン=テグジュペリの『星の王子さま』(原題:Le Petit Prince)。個性的で温かみのある挿絵も作者自身が描いたものです。
あらすじ
砂漠に不時着した飛行士のぼくは、不思議な男の子に出会う。遠い星からやって来た、その小さな王子さまからぼくはいろんな話を聞いた。故郷の星の様子、大切なバラとの出会いと別れ、さまざまな星で出会った人々、そして地球に来てからこと……。心に響く不朽の名作。
内容紹介と感想
現在進行形の子どもよりも、元子どもである大人の心に刺さる作品であると思っています。作者自身、大人の友人に対して献辞を捧げているということもありますが、それ以上に個人的な体験からそのような考えに至りました。
初めてこの作品に触れた子どもの頃は、はっきり言ってあまり面白さを感じられませんでした。おおまかなストーリーさえ覚えておらず、重要なキャラクターであるバラのことさえ記憶に留めていないほどでした。ただ、ウワバミに飲み込まれた象とバオバブの木の挿絵の2つだけは、当時の私にも強烈なインパクトを残しましたが(そういえば、奇妙な響きの名前と姿を持つ、バオバブという木を知ったのはこの本がきっかけでした)。
ところが時を隔てて再読してみると、作中の描写に対する認識がずいぶんと違っていました。
へんてこな大人たち
作中に登場する大人たちは、王子さまの目から見てなんだかなあと思う人ばかりです。たとえば、ひとりぼっちでえらそうにしている王さまや、酒におぼれる人、数字の計算ばかりしている仕事人間など。しかしながら、私たちの日常においてよく見かける大人でもあります。
一般的イメージの大人ではない飛行士の「ぼく」でさえ、しなくてはいけないことがあるからと、つい王子さまを邪険にしてしまう場面があります。
子どもだけが電車の窓にはりついて己の行き先に関心を持っているという台詞があり、最近電車の中で眠りこけてばかりいる自分に気づいてひどく悲しくなりました。
たった一輪のバラ
バラの話は、恋人にまつわるエピソードであったかと考えるようになりました。高慢な態度をとるバラですが、本当は弱い自分を守るために虚勢を張っている。王子さまに対してなかなか素直になれないバラ(女性)の感情に思いをはせ、面倒をみた者には責任があるという言葉に重みを感じるのでした。
キツネ「大切なものは…」
庭園に咲くたくさんのバラと、王子さまのバラはどこが違うのか? 特別な存在になるとは、どういうことか? キツネが身をもって教えてくれます。王子さまとの別れ際がとても切なく、読んでいて胸が苦しくなります。
この作品に限らず、児童文学に登場するキツネというのは、不思議と哀愁を漂わせていることが多いような気がします。
子どもと大人と
いつのまにか本作を飛行士(大人寄り)の目線で読むようになっていました。子どもの頃に読んで退屈だったのは、子どもにとってはごく当たり前のことが書いてあるからだろうかと考えたりもします。
翻訳版
当初翻訳権を持っていた岩波書店のものが有名ですが、現在では複数の出版社から日本語訳が出ており、選択肢が多くなっています。これからお読みになる方は、好きな翻訳者さんだから、装丁がすてきだから、などお好みの基準で選べばよいと思います。
しかしながら私の場合、ファーストインパクトには勝てないのか、内藤濯氏訳の言葉遣いが特徴的なのもあって、しっくり来るのはやはり岩波文庫版です。
また有名作品だけあって、フランス語勉強用の『星の王子さま』もたくさん出版されていますので、人によってはそちらに挑戦してみるのもよいでしょうね。
おわりに
とてもメッセージ性の強い本作。ずいぶん昔に読んだきりという方も、今読むとまた違った見方ができるかもしれません。
本を読んで面白いと思った気持ち、つまらないと思った気持ち、そのどちらも自分の感覚として大切にしていきたいですね。