尾崎紅葉『鬼桃太郎』

近現代文学
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今回は昔話「桃太郎」のその後を鬼目線で描いた短編小説『鬼桃太郎』をご紹介します。作者は『金色夜叉』等で知られる、あの尾崎紅葉です。

あらすじ

昔々、鬼ヶ島の阿修羅川のほとりに元門番の鬼夫婦が住んでおりました。桃太郎に攻め入られた際の失態により、現在は漁師として肩身の狭い暮らしを送る日々です。

そんなある日、桃太郎を討ち取り、宝を取り戻した者を次の王にするというお触れが出ました。

これは汚名返上のチャンス。鬼夫婦の願いが通じたのか、川をどんぶらこと流れてきた苦桃から立派な青鬼が生まれます。

「苦桃太郎(にがももたろう)」と名づけられた彼は、きび団子の代わりに人間のどくろを携えて桃太郎退治に出発しますが……。

内容紹介と感想

文豪が描く「桃太郎」後日談

現在の形の「桃太郎」のお話が定着したのは明治時代らしいですね。

本作と同じく「桃太郎」をモチーフにした文豪作品には、性悪な桃太郎を主人公にした芥川龍之介の『桃太郎』などもあります。

ただし、あくまで本編をアレンジしている芥川に対し、尾崎紅葉の『鬼桃太郎』は鬼サイドの後日談となっている点が大きな特徴です。

文豪が描く桃太郎と鬼の対決はどれほど迫力のあるものになるのか、と読む前から期待が膨らみます。

おともの竜たち

旅の道中、苦桃太郎は金色の毒竜に出会います。毒竜は同胞の蛇たちがキジ一族の被害にあっている怨みから、いっしょについて行きたいとのことです。

さらに、ここで白毛の大狒(おおひひ)、牛のように巨大な狼もメンバーに。

桃太郎一行の犬・猿・キジの上位互換と申しましょうか、そんじょそこらの人間や動物ではかないそうもありません。これはますます大スペクタクルの予感?

鬼桃太郎の冒険・完

毒竜の神通力で桃太郎のいる日本まで空をひとっ飛び……のはずが、スピードが速すぎて目的地を通り過ぎたり戻り過ぎたりの繰り返し。

疲弊した毒竜の魔力切れのせいで狒と狼は海に落下。怒り心頭の苦桃太郎も毒竜と大喧嘩の末に「大海へぼかん!」。

……ひどいオチだなあ(ほめてます)。

まさか桃太郎と対峙する前に物語が終わってしまうとは。これが連載漫画だったら「紅葉先生の次回作にご期待ください。」という一文がついていて「えっ、打ち切り!?」と思ってしまいそうなエンディングです。

しかし、鬼たちにチームワークというものがあったなら、そもそも桃太郎一行に負けることなどなかったでしょうし、納得のいく結末ではあります。

出発時から苦桃太郎は力が強くても性格はよくなかったですしね。個人的にはこういうラストもありだと思います。

おわりに

古い文章なので多少読みにくいところはあるものの、本作は短くテンポのよい物語です。また、青空文庫さんでもイラスト付きで掲載されているなど、イメージの補足もしやすくなっています。

あまり難しくとらえず、だれもが知っている昔話のパロディとして、気軽に一度読んでみてはいかがでしょうか。