外山滋比古『思考の整理学』

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東大・京大で1番読まれた本」というフレーズで有名なロングセラー作品である本書。今回は、その面白さ・特長を紹介します。

平易だが思慮に富んだ文章

著者の外山滋比古(とやましげひこ)氏は、教科書や受験国語などでもおなじみの人物です。その文章は、簡単明瞭でとても読みやすく、すらすらと頭に入ってきます。そして、読む・書く・考えるということに関して視野を広げてくれる良書ばかりです。

『思考の整理学』の最初の刊行は1980年代ですが、時を超えて今でも我々に知見を深めるためのカギを与えてくれます。

「グライダー人間」という観点

序盤で著者は、現代の学校を「グライダー人間の訓練所」であると述べています。自分の頭で考えることのできないタイプの学生を、エンジンを持たないグライダーにたとえているわけです。

テーマの決まっている課題はスムーズにこなす。ところがテーマが自由な卒業論文を書く段になると、何を書けばいいのか、何から手を付けたらいいのかさっぱりわからない、という学生が頻出する。

好きにしていいですよ、と言われてかえって困惑してしまった、という経験は私も身に覚えがあります。現在に至るまでの学校教育の課題でもありますね。

単なる指示待ち人間から脱却し、自ら空を飛ぶ飛行機としての力を備えるにはどうすればよいのか? そこを主だった着眼点とし、論が展開されていきます。

考える上での「発酵」の重要性

テーマを発酵させる、つまりテーマを十分に寝かせてから実行に移すべし、というのが著者の意見です。日常生活のあれこれからも、アイデアやヒントは見つかるということを教えられます。

脱線もいいものだ

本書をきっかけにして知った言葉に「セレンディピティ」というものがあります。当初の目的とは異なる、思いがけない価値ある発見、偶然の副産物を指すそうです。

そういえば、今では非常にメジャーな商品となっているポスト・イット(付箋)も、セレンディピティの一例ですね。接着力の強い接着剤の開発中に偶然できた、弱い接着剤を応用することで生まれたヒット商品であると聞きました。

思考や会話の過程においても同じことで、脱線も必ずしも悪いものではないのですね。そこから意外な着想を得られるかもしれません。

※ちなみにセレンディピティという言葉は、セレンディップ(現在のスリランカ)の王子が主人公の昔話に由来しているそうです。

具体的な情報整理の仕方

詳細は本に譲りますが、スクラップやカード・ノート、手帖などの利用方法が紹介されています。よくある方法といえばそうなのですが、さすが目の付け所が違うといいますか、これまで自分はノートなどをろくに使いこなせていなかったんだなあと痛感させられる内容です。

メモをしたはいいがメモを紛失する、メモは手元にあるが出典をいっしょに書いておくのを忘れておおもとの本がわからなくなる。いかにも初歩的なミスですが、あるある体験です。

インターネットは便利ですが、アナログ的手法の情報整理にも一覧性の高さといった利点があります。データがたまっていけば、自分の興味やアイデアの方向性が定まっていくでしょう。ちょっとしたメモも、やがてアイデアが芽生えるための種になってくれるかもしれません。

おわりに

本書からは、考えるという行為に関するヒントと「何はともあれ試してみよう」というやる気を得ることができます。幅広い世代におすすめの本です。