今回ご紹介するのは、大人気シリーズ『大どろぼうホッツェンプロッツ』三部作。作者は『クラバート』『小さい魔女』などでも知られるオトフリート・プロイスラーです。
メインキャラクター
カスパールとゼッペル
仲良し二人組。カスパールは赤いとんがり帽子、ゼッペルは緑のチロル帽子が目印。
ホッツェンプロッツ
悪名高い大どろぼう。サーベルに7本の短刀を携え、コショウピストルを使います。
おばあさん
カスパールの祖母。孫たちにいつもおいしい手料理をふるまってくれます。
ディンペルモーザー氏
責任感の強いおまわりさん。一人暮らしの巡査部長(のちに警部に特進)。
ペトロジリウス・ツワッケルマン
ホッツェンプロッツの友人の大魔法使い。ジャガイモ料理が大好き。
アマリリス
美しい妖精。スズガエルの姿に変えられ、ツワッケルマンの館にとらわれています。
シュロッターベック夫人
千里眼の占い師で水晶玉を使用します。ワニ犬バスティの飼い主。
大どろぼうホッツェンプロッツ
大どろぼう登場
ある日、おばあさんが大切にしているコーヒーひきが盗まれてしまいました。犯人は、連日新聞に載っては世間を騒がせている大どろぼうホッツェンプロッツです。
そこでカスパールは、大どろぼうの隠れ家を見つけ出すため、ある作戦を立てました。彼は『ヘンゼルとグレーテル』のヘンゼルを思わせる賢い子で、そのひらめきには毎回感心させられます。
ただ、少年たちはホッツェンプロッツのことを甘く見すぎていました。カスパールとゼッペルは逆にホッツェンプロッツに捕まり、さらにカスパールは魔法使いツワッケルマンに召使いとして売り飛ばされてしまうのです。
画家トリップによるユニークな挿絵も魅力のひとつである本シリーズ。私は、この1作目に登場するツワッケルマンの書斎のイラストが特にお気に入りです。
悪い魔法使いとの対決
このツワッケルマン、悪党ではありますが、少々まぬけなところも。好物のジャガイモの皮をむく魔法はできなかったりするなど、ホッツェンプロッツと同じくコミカルな面が見られます。
とは言っても、凄腕の魔法使いには違いなく、館の周囲には結界が張られていて逃げ出すのは容易ではありません。しかし、ここからが本作の見所です。
妖精アマリリスの話を聞いたカスパールは、魔法の抜け穴をついて無事脱出に成功。彼女の呪いを解くアイテムである妖精草を探しに出かけます。
その後、カスパールとゼッペルが帽子を取り替えっこしていたことが、思いもよらぬ幸運をもたらすことに……。
最終的にすべて丸く収まったわけですが、アマリリスの元の姿が人間サイズであるのには少しびっくりしました。なぜか勝手に『ピーター・パン』のティンカー・ベルのような小さい妖精を想像していたので。
大どろぼうホッツェンプロッツふたたびあらわる
大どろぼう脱走
消防ポンプ置き場に閉じ込めていたホッツェンプロッツが脱走しました。しかも前作のラストからわずか2週間後のことです。
被害者はまたしてもおばあさん。今度は孫たちのために用意した昼食を食べられてしまい、そのうえ誘拐までされるはめに。
日曜日にはプラムケーキ、木曜日には焼きソーセージとザワークラウトを作ってもらえるとはうらやましい限りですが、前作といい今作といい、カスパールたちはなかなかごちそうにありつけませんね。
また本作では、1作目ではあまり活躍できなかった巡査部長ディンペルモーザー氏の出番が多め。しかしながら、ホッツェンプロッツに制服と自転車を奪われるわ、2回もホースでぐるぐる巻きにされるわ、ふんだりけったりです。
ワニ犬大活躍
今回初登場となるシュロッターベック夫人はなんと「国家試験合格千里眼者」。水晶玉をのぞけば、ホッツェンプロッツに気づかれることなく身代金受け渡しの様子をチェックすることができるので、非常に便利です。
ただし彼女、魔法のセンスはなかったらしく、ワニに変えた愛犬バスティを本来の姿(ダックスフント)に戻せないままなんだとか。
それでも中身は犬のままであるため、バスティが夫人に甘える描写などは愛らしく感じます。もちろん鼻がきくので、追跡だってお手の物。カスパールたちの作戦もうまくいき、ホッツェンプロッツは再逮捕されることになりました。
大どろぼうホッツェンプロッツ三たびあらわる
大どろぼうの改心
最近のカスパールたちは、バスティの魔法を解く方法を探して試行錯誤中。そこにホッツェンプロッツが帰ってきました。
大どろぼうに出くわした後、おばあさんが気絶するのは気の毒ですが、3回も続くともはや様式美です。
模範囚であったため早く釈放されたというホッツェンプロッツ。驚いたことに、どろぼう稼業から足を洗う決心までしていました。
ここでホッツェンプロッツを最初に信じたのが、過去に二度対決したカスパールとゼッペルだというのが何かよいですよね。
敵どうしでなくなってみると、実はのりが合うことがわかった三人。思いきりふざけて、楽しいひと時を過ごします。
大どろぼう失踪
しかし、おばあさんやディンペルモーザー氏はそう簡単には信用してくれませんでした。
シュロッターベック夫人の水晶玉やおばあさんのカボチャ(さまざまなデザートの味がする特別なもの)を盗んだ疑いまでかけられる始末で、これまでの行いが悪かったとはいえ、ホッツェンプロッツがかわいそうになってきます。
こんなふうに無実の罪を着せられてしまっては、「いっそのこと悪人に戻ってしまおう」と考えてもおかしくないかもしれません。
けれど、ホッツェンプロッツは「アメリカに渡って金鉱探しにでもなるしかない」と思いつめます。それくらい本気でどろぼうをやめようとしていたのです。
大団円
真犯人に気づいたカスパールとゼッペルのおかげで容疑は晴れたものの、ホッツェンプロッツは今後の身のふり方について頭を悩ませていました。
しかし最後には、彼にぴったりの、とびきりすてきな仕事があることが夫人の未来視で判明します。
ホッツェンプロッツがいったい何の仕事を始めたかは読んでみてのお楽しみ。バスティを犬に戻す手段も見つかって、まさに大団円です。
おわりに
人間味あふれる愉快なキャラクターたち、ワクワクするストーリー、魔法や占いといったファンタジー要素、ちょっとした小道具をうまく用いたギミック、読んでいるだけでお腹が鳴りそうになる料理の数々。
どこを切り取っても魅力的で、ロングセラーになるのも納得ですね。このシリーズに興味を持たれた方は、ぜひ最後の3巻目まで読んでください。とても幸せな気分で本を閉じることができますよ。