プロイスラー『クラバート』

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『クラバート』は、『大どろぼうホッツェンプロッツ 』シリーズなどで知られる、オトフリート・プロイスラーの作品です。プロイスラーは、ドイツに残るクラバート伝説に感銘を受け、脚色を加えて、彼独自のクラバートの世界を生み出しました。

この本に対する私の第一印象は「表紙が怖い」でした。だって人面鳥ですよ。しかし読み進めていくうちに、作品にぴったりの表紙と挿絵だと思うようになりました。描いたのはヘルベルト・ホルツィング氏。親方が魔法典を広げている絵と、少女がクラバートを抱きしめている絵がお気に入りです。

そういえば、ジブリの宮崎駿監督作品では、挿絵も含めてこの『クラバート』に影響を受けたのではないかと思われるシーンが見られますね。

あらすじ

年明けのことだった。14歳のクラバートは、11羽のカラスが出てくる奇妙な夢のお告げにしたがい、ある水車場にたどり着いた。そこで出会ったのは、眼帯をした黒衣の男。彼がここの「親方」であり、クラバートは弟子として迎え入れられることになった。

水車場には、ほかに11人の若者がいた。職人仲間たちの言動にときどき違和を感じつつも粉ひきの仕事を続けるクラバート。

見習い期間の3か月が過ぎ、ついにその日がやってきた。カラスの姿になり、親方から魔法を教わることになったのだ。

さらに時は流れ、年末が近づくと仲間たちの様子がおかしい。些細なことでもめてしまう。そして大晦日、仲間の1人が姿を消し──あくる日、冷たくなって発見された……。

内容紹介と感想

水車場と〈魔法の学校〉

年の瀬になると思い出す作品です。
18世紀の初めごろ、冬のドイツの水車場──。この舞台設定だけで、すでにぞくぞくするような雰囲気が漂ってきます。空恐ろしいのですが、同時にとても惹きつけられるものがありました。

魔法学校は、ハリー・ポッターシリーズに登場するような大規模なものではなく、教師1人に生徒12人なので、私塾といったところですね。週に一度、親方が〈魔法典〉を弟子たちに読んで聞かせます。

家畜に変身した弟子を市場で売ったうえでまた水車場に戻らせたり、権力者に働きかけたり、弟子を監視したりなど、親方の魔法の使い方はあくどいものが多いです。同じく強力な魔法の使い手である「デカ帽」が、苦しい思いをしている人々に対して良心的である分、余計に際立つものがあります。

年末に弟子が1人消えても、また新入りが現れ、それが繰り返される。場のすべての決定権を握る親方。水車場からは絶対に逃げられないのか、という恐怖が付きまといます。

職人仲間たち

印象深いのは、親切な職人頭トンダですね。水車場で起きていることの裏側がわかってみると、彼はいったいどのような心中であったのかと考えてしまいます。何にでも魔法を使って働かないのでは人はだめになってしまうというのも、のちにクラバートが魔法と決別することからして、重要な意見です。

そして、ミヒャルとメルテン。この水車場では、他人を思いやれる人ほどつらい目にあうのが悲しい。

また、ひそかにクラバートを助けてくれている人物がいるのですが、それをわかった上で読むとフォローの仕方に感心してしまいます。

クラバートの成長と愛

作中では、クラバートの3年間にわたる成長過程が描かれています。前半は先輩職人たちに助けられてばかりいたクラバートですが、2年目、3年目と今や助ける側に立つようになりました。

クラバートには、仲間の敵討ち以外にも水車場を出る目的があります。それは、愛のため。1年目の復活祭の日に歌声を聞いて以来、心から離れない少女のためです。

ようやく少女と対面できたのは、3年目のこと。彼女は、夢の中で出会ったクラバートをずっと待っていたのだといいます。共に過ごした時間の長さなど関係なく、親しくなる二人。

しかしクラバートは、水車場の職人は女の子を不幸にするという話をトンダから聞いていました。水車場で迎える3回目の大晦日が近づき、決断の時を迎えます。

おわりに

クラバートを救ったのは、強い意志と「特別な魔法」。クラバートの思い人がいっさい不安そうなそぶりを見せないのがすごいですね。

児童文学の範疇にとどまらない、重厚な物語でした。