L・F・ボーム『オズの魔法使い』

今回は、児童文学の名作『オズの魔法使い』をご紹介します。
誰にでもおすすめできる良書で、初めて読む方はもちろんのこと、映画しか見たことがない方や子どもの頃に読んだきりだという方も、あらためて原作を読むと新しい発見があり、楽しめると思います。

あらすじ

家ごと竜巻に飛ばされて不思議なオズの国にたどり着いたドロシー。故郷に帰る頼みの綱は、偉大な魔法使いだというオズ大王だけです。
大王に会って願いを叶えてもらうため、ドロシーは道中で出会ったかかし、ブリキのきこり、ライオンとともにエメラルドの都を目指します。

メインキャラクター

ドロシー
カンザスの大草原でおじ夫婦と暮らす少女。快活で思いやりのある性格。愛犬のトトと3人の仲間たちとともにオズの国で大冒険を繰り広げます。願いはカンザスに帰ること。

かかし
トウモロコシ畑にいた生まれたてのかかし。頭も含めて中にはわらが詰まっており、それではとても賢くなれないと思っています。願いは脳みそをもらうこと。

ブリキのきこり
錆びてしまい、森の中で1年以上も身動きがとれずにいました。実は元人間で、愛情としあわせを求めています。願いはハートを取り戻すこと。

ライオン
森で出会った大きなライオン。他の動物たちから勇敢な百獣の王だと思われていますが、実は生まれつき臆病なのが悩みの種。願いは勇気を得ること。

東の魔女
マンチキンを奴隷扱いしていた悪い魔女。強大な魔法の力を秘めた銀の靴の元の持ち主。

北の魔女
親切なおばあさん魔女。彼女にキスされると、どんな攻撃も受け付けなくなります。マンチキンと仲がよいのですが、東の魔女ほどの力はなく、彼らを助けられずにいました。

西の魔女
ウィンキーの国を支配する悪い魔女。遠くを見通せる目でドロシーたちの様子をうかがっており、オオカミや翼の生えたサルを差し向けてきます。

南の魔女
一番力が強い魔女。若々しく美しい女性です。陶器の国からさらに南へ行ったクァドリングの国を治めています。

オズの魔法使い
エメラルドの都に住む大王。巨大な頭だけの姿であったり、怪物であったりと、その時々で容姿が変化します。魔女たちが束になってもかなわないほどの大魔法使いらしいのですが、基本的に誰とも会おうとしません。

内容紹介と感想

ドロシー、オズの国へ

ドロシーが目を覚ました場所は、小柄なマンチキンたちの住む国でした。家がちょうど東の魔女の真上に落ちたため、ドロシーは着いて早々悪者を退治した英雄、大魔法使いとして尊敬のまなざしを向けられます。 

これ以降の描写を見ていてもわかるのですが、オズの国の住人は全体的に善良な人が多い、という印象を受けます。それは美徳ではありますが、人を疑うことを知らない愚直さには危うさを感じないでもありません。

さて、北の魔女たちによれば、オズの国は四方八方を砂漠に囲まれているといいます。人形劇『ざわざわ森のがんこちゃん』の舞台みたいですね。その他の文明国から隔絶されたオアシス的世界にいるわけですから、ドロシーがカンザスに帰るのは容易ではありません。

銀の靴を譲り受けたドロシーは、オズ大王の力に望みを託し、首都に続く黄色いレンガの道をたどり始めます。

愉快な同行者たち

道中、ドロシーとトトはとてもすてきな仲間に恵まれます。気さくで陽気なかかし、礼儀正しいブリキのきこり、友情に厚いライオンの三名です。
見知らぬ地で心細い一人旅をせずにすむというのは、とてもありがたいことですね。しかも、みんな面白くて頼りになる存在です。

彼らはそれぞれの特技を生かし、力を合わせて苦難を乗り越えていきました。森を抜け、崖を越え、川を渡り、危険なケシの花畑を通り過ぎ、エメラルドの都に到着します。

エメラルドの都

美しい首都に暮らす住人たちは豊かな生活を送っており、オズ大王が優れた統治者であることは間違いなさそうです。しかしながら、ようやく会えた大王は、願いを叶える交換条件として西の魔女の討伐を要求してきます。

強い魔力を持っているはずなのに、そこはかとなく漂う大王の胡散臭さは何なのでしょう? 彼はいったい何を隠しているのでしょう? 都で着用が義務付けられている緑色のメガネが、先入観・偏見といった意味での「色眼鏡」であるかのように思えてきます。

※なお英語にもrose-colored glassesという表現がありますが、世の中がバラ色に見える、すなわち楽観的・能天気という意味で、日本語の色眼鏡とはニュアンスが異なるようです。

大王の秘密と仲間たちの願い事

渋々ウィンキーの国に向かうも、翼の生えたサルに襲われたり、残虐な西の魔女にこきつかわれたり、散々な目にあう一行。苦労の末、エメラルドの都に帰還し、大王と再会したところで、偶然その正体を知ってしまいます。

大王にはとんでもない秘密がありました。このためにドロシーたちを振り回したとはいえ、根は決して悪人ではないオズ。実際、素直すぎる住民を利用してあくどいことをやろうと思えばできたはずですが、そんなことはしませんでしたしね。どこか憎めないタイプです。

そして、物事の本質というものをよく心得ている人なのでしょう。ドロシーの仲間たちに大事なことを教えてくれます。

それはきっと、この本を読んできた読者ならもう気がついていること。これまでの出来事を振り返ってみましょう。

度重なるピンチを切り抜けられたのは、かかしの機転のおかげでした。
時には涙をこぼし、心配りを欠かさないブリキのきこりの姿をみんなは見てきました。
また、体を張って敵に立ち向かうライオンは、どれほど力強く頼もしい存在であったことでしょう。

彼らが本当に必要としていたのは、自信だったのです。大王の対応は、一種のプラシーボ効果狙いですね。当人がその気になれば、偽物だって本物になっちゃうんです。

おうちほどいいところはない

カカシ、ブリキのきこり、ライオンはオズの国での居場所を見つけました。そして、ドロシーの居場所はカンザスです。

客観的に見れば、かかしが言うように、美しいオズの国に永住する方がしあわせなのかもしれません。それでもドロシーにとっては、これまで暮らしてきた故郷、家族が待っているわが家に勝る場所はないのです。

南の魔女グリンダの助言を受け、無事に帰郷を果たすドロシー。仲間たちと道は異なりますが、それぞれがそれぞれにしあわせな未来に向かって歩み始めます。

続編について

あまり知られていませんが、『オズの魔法使い』には続編が存在します。

当初構想になかった続編には時々あることですが、「せっかく1作目で○○が△△したのに、結局続編で××するなんて……」と残念な気持ちになってしまう部分も。私はポプラ社のシリーズを何冊か読んだのですが、きれいにまとまっている1作目と比べるとインパクトに欠けるという感想を抱きました。とはいえ、2作目のオズマ姫の登場にはかなり驚かされましたが。

なお、復刊ドットコムからもシリーズ完訳版が出ています。

映像化作品

『オズの魔法使』(The Wizard of Oz)

『オズの魔法使い』の映像化作品といえば、やはりこれ。1939年公開の不朽のミュージカル映画です。アカデミー歌曲賞を受賞した挿入歌「虹の彼方に(Over the Rainbow)」もよく知られています。本編は見たことがないけれど、この曲は聴いたことがある、という方もいらっしゃるでしょう。

アレンジが加えられている映画版を視聴後に原作を読んだ場合、ルビーの靴ではなく銀の靴だったり、西の魔女を倒した後に再び旅に出たり、その差異に驚くかもしれません。

劇団四季『ウィキッド』

ブロードウェイミュージカル『Wicked』 の日本語版。『オズの魔法使い』を魔女サイドから描いたアナザーストーリーです。

内容は大人向けで重い描写が見られます。私は、子どもたちが楽しんで読める現代のおとぎ話を目指したという原作者のスタンスが好きでしたので、「うーん、ちょっと何だかなあ」という気持ちになった舞台でした(ファンのみなさん、すみません)。

ですが、ヒロイン二人によるデュエット曲「自由を求めて(Defying Gravity)」は、力強い歌声がすばらしく、必聴の名曲だと思います。

おわりに

カンザスへの帰り方は、物語の終盤にあっさりと判明します。しかし、旅の過程で得られたものは、何ものにも代えがたいものです。

オズの国には怖い魔女や怪物もいましたが、色鮮やかな町の数々を目にし、優しい住人たちと触れ合うことができました。そして、大切な仲間と出会い、彼らの願いを叶える手助けをすることができました。

遠回りしたからこそ見えてくるものがあるということを『オズの魔法使い』は教えてくれます。

やっぱり何だかんだオズの魔法使いは偉大な男だったのでしょう。みんながみんな、欲しいものをちゃんと手に入れたのですから。