『十五少年漂流記』(原題:Deux ans de vacances)は、SFの父ジュール・ヴェルヌが書いた、少年向けの冒険小説です。
※本記事では新潮文庫の波多野完治訳を参考にしています。
あらすじ
1860年2月15日。明日からは待ちに待った夏休みだ。ニュージーランド沿岸一周の船旅を楽しみにしていた少年たちは、はやる気持ちを抑えきれず次々にスルギ号に乗り込んだ。
ところが、船をつなぎとめていた綱がいつの間にかほどけ、スルギ号は大人の乗船を待たずに沖へ流れ出してしまう。
船は太平洋を漂流し、翌月になってようやく陸地にたどり着いた。これが無人島での冒険の日々の始まりであった。
内容紹介と感想
2年間の休暇
南半球が舞台となっているので、少年たちが「チェアマン島」と名づけた島に到着した3月は、北半球の9月に相当します。
やがて冬が訪れ、さらにどんどん月日が流れていくので、私などは「いつになったら帰れるんだろう?」とそわそわしながら読んだものでした。
しかし、原題を直訳すると「2カ年の休暇」なので、実はタイトルで滞在期間が明かされていたのです。この2年を「2年も!?」と思うか「2年程度ですんでよかった」と思うかは、人によって分かれるところでしょうが。
作中でも話題に上るダニエル・デフォー著『ロビンソン・クルーソー』の主人公が孤島で28年過ごしたことからすると、ずっと短い期間ではあります。しかし、大人の1年と子どもの1年を単純に比較することはできませんからね。
15人の少年たち
遭難した乗客は、ニュージーランド(当時はイギリス領)にあるチェアマン学校に在籍する1~5年生(8~14歳)14名と猟犬のフヮン。
フランス人のブリアン兄弟とアメリカ人のゴードンを除くと残りの生徒は全員イギリス人で、ここに船のボーイで黒人のモーコーが加わり、総勢15名となります。
親元を離れて自立した生活を送るだけの基礎力が少年たちにあったのは、チェアマン学校が寄宿学校であったおかげでしょう。
頼れるリーダー
頼もしいリーダー格である上級生のブリアン、ドノバン、ゴードンの3人は、出番も多く印象に残るキャラクターです。
ブリアン
明るく素直、勉強熱心ではないもののスポーツが得意でクラスの人気者、という主人公らしい人物像です。今回の冒険でもリーダーシップを発揮し、下級生からいっそう尊敬されるようになりました。
どうすればみんな仲良く元気に過ごしていけるか常に気を配っており、自己犠牲もいとわない勇敢さを兼ね備えています。
ドノバン
ブリアンをライバル視しており、理由のひとつには彼がフランス人だから、ということがあるようです。
成績優秀ですが、いばりんぼうで周りからあまり好かれていません。このため、ドノバン派は数人しかいないありさま。
しかしながら、自分の態度が本当は間違っていることも自覚しており、根っからの嫌なやつというわけではありません。物語終盤には、かっこいい見せ場もあります。
ゴードン
慎重な性格で、ブリアンとドノバンが対立したときにバランスをとってくれる、ありがたい存在です。
島の初代大統領にも選ばれました。が、ルールを厳格にしすぎたため、下級生からの人気が落ちることに。そのあたりの組織内のさじ加減って難しいですね。
ちなみに、帰れなくても別にかまわない、と考えている唯一の人物。幼いころに両親を亡くし、身内がいないからなのですが、こうした事情で大人びた性格にならざるをえなかったのだとしたら切ないかも。
無人島でのサバイバル
アザラシにペンギン、ダチョウ、ビクーニヤ、ラマ、山犬、ジャガー……。出てくる動物を挙げるときりがなく、チェアマン島はまるで動物王国です。
たいへんな困難に見舞われた少年たちですが、不幸中の幸いと言えることがいくつかありました。
まず、船に積んであった缶詰などの食料、道具類、書籍等がそのまま利用できたこと。
加えて、半世紀前に遭難し、この島で生涯を終えた船乗りが手書きの地図などを残していたこと。
そして何より、彼らはひとりぼっちではないこと。このような環境下で孤独と闘い、安定した精神状態を保たなければならなかったとしたら、それはさぞや難しいことだったでしょう。
また、できること・できないことを互いに補い合えることも大きなメリットです。たとえば、おとなしいけれど手先が器用なバクスターは、道具作り・日記係といった縁の下の力持ちとしてみんなの活動を支えました。
弟の秘密
ジャックは元々いたずらっ子である、港を離れてから元気がない──彼の悩みの種については、この2つの情報から序盤で見当がついた方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際にジャックがブリアンに秘密を打ち明けるのは物語後半になってから。弟の罪は兄である自分にも責任があると感じたのでしょう、ブリアンの動揺・怒りは相当なものでした。
その二人の会話を偶然耳にしたモーコー。ジャックを責め立てたり、他のメンバーに言いつけようとしたりしても無理のない状況です。
けれどもモーコーは、ジャックを許してあげてほしいとブリアンに訴え、みんなには黙っている、と約束してくれました。
モーコーの優しい心遣いにぐっとくる名場面です。
クライマックスへ
新たな漂流者たちの出現により物語は急展開を迎えます。彼らはいったい何者なのでしょう?
一度はグループを離脱したドノバン派とも仲直りし、あらためて固い絆で結ばれた少年たち。奇想天外な方法で敵陣を偵察した後、ブリアンたちは最後の戦いに挑み、ついに帰還を果たします。
15人の少年は、厳しい島での生活を通してひとまわり大きくなりました。
おわりに
現代の感覚からすれば気になる描写(モーコーに選挙権がなかったり敵の命を奪ったりするなど)がないわけではないですが、そこは作品の書かれた時代背景も考慮しなくてはならないでしょう。
総合的に見れば、『十五少年漂流記』は心躍る冒険譚であり、熱い少年漫画のように「友情・努力・勝利」という言葉がぴったり当てはまる作品であると思います。