岡田淳『二分間の冒険』

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あらすじ

「すぐにもどってくるんだぞ。二分以内だ。いいな」

映画会の準備中とげぬきを見つけた悟(さとる)は、体育館を抜け出し、保健室に届けに向かった。

その途中出会ったのが、不思議な黒ネコ「ダレカ」である。そいつは人の言葉を理解し、頭の中に直接話しかけてきた。悟がとげぬきで「見えないとげ」を抜くと、お礼にダレカは願いを叶えてくれるという。

「(考える)時間をおくれ」と言ったとたん、悟は暗い森の中に移動していた。そこでダレカがゲームを持ちかけてくる。この世界の何かに姿を変えているダレカをつかまえることができれば、元の世界に戻ることができるのだ。

悟はダレカを探しつつ、クラスメイトによく似た「かおり」とともに「竜の館」を目指すことになるのだが……。

元の世界とは時間の流れが違うらしい、不思議な世界。
たった二分間。だけど、とても長い二分間。こうして悟の冒険が始まった。

内容紹介と感想

主人公・悟

普通の小学6年生。学校の成績はいまいちですが、口実を見つけて作業をさぼるといった方面には頭が回るタイプ。

しかし、ちゃんと他の人のことも考えられる心優しい少年です。自分が元の世界に帰ることよりも、竜を倒しかおりたちを助けることを優先して行動します。

魔法で老人にされた人々を見て「ほんとうに自分の人生を生きた老人って、あんなものじゃないはずなんだ。」と悟が話す場面がありますが、これはとても大切な感覚だと思います。

不思議な異世界での冒険

大人の概念が存在しない、子どもだけが暮らす村の謎。
竜の館へ向かう本当の理由。
館に着いてから知らされるショッキングな事実。
竜との対決。

読んでいる間、わくわくドキドキが絶えない冒険物語です。勇気と愛と友情と、児童文学らしい要素がたくさん詰まっています。

他方で、異世界で主人公が英雄的活躍をする冒険譚としてはイレギュラーに感じる部分もありました。それがどこかは、実際に読んでみなさんにもぜひ確認してみてほしいところです。

勇気ある子どもたち

まずは、序盤からずっといっしょに冒険するかおり。悟とかおりは、ともに悩み、話し、旅する中で、互いにかけがえのない存在として尊重し合うようになります。

また、この二人以外にも竜に挑む子どもたちがおり、彼らにもドラマがあります。最後に意地を見せた太郎、後続の参考になるようにと行動する宏一・知佐子ペアなどがかっこよかったですね。

そして、かりそめの希望を捨て、みんなで力を合わせようと動く過程がまたとてもよいのです。

竜との謎かけ勝負、ダレカの行方

昔話でも定番の謎かけ勝負も登場します。たとえば、こんな感じです。

見えているのにけっしてとどかず、
生まれてから死ぬまえの日まであるもの。
それはなんだ。

読みながら答えはなんだろうと自分でも考えてみるのですが、さっぱりひらめかず。みなさんはわかりますか? どの謎もとてもよくできており、面白いですよ。

そして最初で最後の謎、ダレカはどこへ行ったのか? ヒントは「この世界で、いちばんたしかなものの姿をしている」ということ。冒険を続けながら、悟はそれはなんなのかをずっと考えます。

おわりに

あなたは本を読むのにいつも何時間程度かかっていますか。長くても数日といったところでしょう。けれど本の中での時間は、何か月、何年、何十年も経っていることがあります。

読書体験自体が、この「二分間の冒険」に似ているのではないかと思うのです。そこには、単純な時間では推し量れない、冒険の世界が待っています。