ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(海底二万マイル)』

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あらすじ

時は1860年代。巨大な「怪物」が海洋関係者を騒がせていた。アロナックス教授は、海獣の類ではないかという仮説のもと、追跡船に乗り込んだ。

ついにターゲットを発見したというところで、教授は海に投げ出されてしまう。その後、教授たちを救助したのは海底船ノーチラス号、それこそが怪物の正体だったのだ!

ノーチラス号の存在を秘密にしておきたいネモ船長の意向により、同行を余儀なくされてしまう教授たち。ここに長い海底探検が始まったのである。

内容紹介と感想

ノーチラス号の冒険

本書が書かれたのは、高機能な潜水艦など夢のまた夢という時代。しかし、作者の豊かな知識と想像力をもって描写される海の世界は、実際に見てきたかのように精緻で、子どもの視点でも大人の視点でも興味深く読むことができます。

まず、ノーチラス号自体がとんでもない技術力の結晶です。中には、1万冊以上の蔵書に、美術品、標本なども備えています。まるで動く城です。

そして、ノーチラス号から見える海底の景色や珍しい生き物たち。サンゴに囲まれた幻想的な墓地。失われたアトランティスの古代遺跡。

本書の魅力は尽きません。これぞ色あせない海洋ロマン。

教授と2人の同行者

難しい立場に置かれながら、上述のような環境ゆえに教授は渡航にむしろ乗り気です。学術的探究心がそうさせるのでしょう。また、忠実な使用人のコンセイユは、得意の分類学を大いに活用。意外と彼は言いたい放題のところがあり、作中のユーモアを担っている面も見られます。

一方、もう1人の同行者である銛打ちのネッドは、帰りたくて仕方ありません。彼は軽口を叩き合える仲間であると同時に、不穏分子になりかねないところもあります。

ミステリアスなネモ船長

こんな客人たちに対して、紳士的かつ厳しく接してくるのがネモ船長です。彼は消極的な世捨て人ではなく、強い意志を持って行動しており、時に激情にかられもします。本名も出身地も不明で、その背景については結局推測の域を出ません。

ネモ船長が許されざる行為をしているのは確かです。しかし、教授は同情心もまた抱かずにはいられません。祖国も家族も、そしておそらくすべてを失ったであろう、「誰でもない」人、ネモ船長の胸中はいったい……?

ネモ船長については、作中でもっと掘り下げるべきではなかったかとの感想を抱く方もいるようです。しかし個人的には、あえて謎を残しているのがよいと思いました。

ちなみに別作品『神秘の島』では、船長の過去が明かされているようです。気になる方はそちらをどうぞ。

おわりに

ノーチラス号という潜水艦のイメージは、作品が書かれた当時としては相当斬新だったことと思われます。

しかし、科学がさらに進歩したことでそのイメージが衰えたかというとそんなことはないでしょう。海洋世界を舞台にした冒険譚は、いまだ読む者を惹きつけてやみません。