ホーガン『未来からのホットライン』ほか

今回は、『未来からのホットライン』を中心に、ロマンス要素のある時間SFを3作品ご紹介します。ハードSFの長編から恋愛メインの短編まで、それぞれに面白い特色があります。

ジェイムズ・P・ホーガン『未来からのホットライン』

あらすじ

ノーベル物理学者の祖父チャールズに呼ばれ、スコットランドを訪ねたマードック。古城の地下で祖父に見せられたのは一種のタイムマシン、60秒前の過去へメッセージを送るプログラムであった。核融合プラントに勤める知人らも交え、マードックたちは実験と考察を重ねる。

そんな中、マードックの友人が突如病に倒れてしまう。さらに、彼らのすぐそばに世界を揺るがす危機が迫りつつあった。

内容紹介と感想

宇宙の謎

『未来からのホットライン』(原題:Thrice Upon a Time)は、『星を継ぐもの』の作者ホーガンが描いた時間SFです。登場するタイムマシンは、H・G・ウェルズの作品などに見られるような、個人の体ごと移動するタイプのものではありません。送ることのできるのは短いメッセージだけ。

物語の序盤、「時間間通信機」についての事前情報を持たないマードックが、でたらめな文字列を入力する。その文字列を示す紙は、すでに60秒前にチャールズが手にしている。ここまではすんなり理解できます。

しかしこの後が問題。60秒後の未来から新たにメッセージが届いたのを見たマードックは、メッセージを入力しないという選択をします。その結果はといえば、特に何も起きない。これが意味することとは?

いくつかの可能性を検討していくマードックたち。直列宇宙か、並行宇宙か。宇宙の在り方について鋭く切り込んでいきます。本作の斬新さは、このような形で時間と宇宙の謎を描写しているところにあります。

猫と彼女と

この本のページをめくり、登場人物一覧で「マックスウェル チャールズの飼い猫」という文言が目に入った瞬間、「これは良書だ!」と私は勝手に決めました。

マードックは、仔猫のマックスウェルのいたずらがきっかけで医師のアンと出会います。くしくも彼女も核融合プラントのスタッフ。マードックは、マシンの研究を続ける一方で、アンと親しくなっていきます。

マシンの利用に関しては仲間内でルールを決めていたのですが、アンとの良好な関係を壊したくないマードックは思わず……。

世界の危機

物語の後半、世界を救う唯一の解を見出したマードックは苦渋の決断を下します。このころにはマシンは改良されており、送信できる文字数もさかのぼることのできる時間もずいぶん長くなっていました。

マシンを使った危機の回避方法とは? マードックとアン、2人の恋の行方は? 最後の最後まで時間間通信の特性を存分に活かした物語が展開されます。

追記:原題Thrice Upon a Timeについて

なお、原題の「Thrice Upon a Time」は、おとぎ話を語るときの定型表現「once upon a time」(日本でいう「昔々…」)をもじって付けられたものと思われます。また、onceには「かつて、昔」という意味だけでなく、「一度、一回」といった意味もありますね。

once(一度)ではなく、thrice(三度)。ちょっとネタバレになりますが、作中では大きく分けて都合3回物語が繰り返されるので、それを踏まえているのでしょう。時間SFらしいタイトルです。

ロバート・A・ハインライン『夏への扉』

あらすじ

ロボット開発者のダンは、婚約者とビジネスパートナーに裏切られ、強制的に冷凍睡眠につかされることになった。次に目が覚めてみると、そこは30年後の世界。発明品は奪われた。愛猫ピートや、ビジネスパートナーの娘のその後も心配だ。状況は悪い。それでも「夏への扉」はきっと見つかるはず……。

内容紹介と感想

猫が出てきて恋愛要素もある時間SFというと、この作品を思い浮かべる方が多いことでしょう。しかし、この作品には(個人的に)重大な欠点があります。それは、思いのほか猫の出番が少ないということ。思い込みで期待していただけといえばそうなんですが。あの表紙を見たら期待しちゃいますよね……。

また恋愛面では、ヒロインのかわいらしさより、元婚約者の性格の醜悪さの方が強烈なインパクトがありました。

それだけに、ダンがポジティブなところは好印象。客観的に見て主人公がかなり悲惨な状況に置かれているにもかかわらず、暗いムードがないのが本作のよいところであると思います。この主人公は職人肌というか、技術者としての興味関心が先に立つタイプで、未来でも積極的に行動していくのです。

途中出会った、親切で明るい夫妻も好感が持てました。結局は裏切られることになったとしても、人を信じないことには何も始まらないじゃないか、という主人公の考え方は、とても好きです。

ラストもハッピーエンド。それにしても、ヒロインも頭を痛めていましたが、タイムトラベルの話は「鶏が先か、卵が先か」といった感じで悩ましいですね。

追記:映像化作品について

本作は、演劇集団キャラメルボックスにより、2011年と2018年に舞台化されています。

また、物語の舞台を日本に移した映画『夏への扉―キミのいる未来へ―』が、2021年6月に公開されました。

ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』

あらすじ

おとといは兎を見たわ、きのうは鹿、今日はあなた。

マークは丘の上で若い女性を見かける。白いドレスを身にまとい、たんぽぽ色の髪をした彼女の名はジュリー。父親の発明したタイムマシンで23世紀からやってきたのだという。マークは彼女のことを想像力豊かな女性だとばかり思っていたのだが……。

内容紹介と感想

最後に紹介するのは短編SFです。上の2作品は、全体からすると恋愛の比重がそれほど大きくないのですが、こちらは恋愛メイン。ちなみに猫は出てきません。

マークの前から姿を消すジュリー。妻子ある40代の身でジュリーが気になって仕方ない自分に気づき、とまどうマーク。不安そうなそぶりを見せる妻。読んでいる途中、やはり男性は若い女性の方がよいのだろうか?といった考えが頭をよぎったりしたので、ラストはよい意味で予想を裏切られました。

さわやかな読後感が心地よい、時を超えた愛の物語です。