E・L・カニグズバーグ『クローディアの秘密』

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『クローディアの秘密』(原題:From the Mixed-Up Files of Mrs. Basil E. Frankweiler)は、メトロポリタン美術館を舞台にした物語。1968年のニューベリー賞(最優秀児童文学に対して与えられるアメリカの賞)受賞作品でもあります。

あらすじ

どこか大きな場所、気持ちのよい場所、屋内、その上できれば美しい場所──ニューヨークのメトロポリタン美術館にやって来たのは、そこが理想の家出先だからでした。

ところがクローディアは、途中から家出そっちのけで美しい天使の像に夢中になってしまいます。その像がミケランジェロ作だという決定的証拠を見つけることができれば、英雄視されること間違いなしですが……。

主な登場人物

クローディア・キンケイド
まもなく12歳。成績優秀で、じっくり計画を立てるのが得意。やや理屈っぽい性格。

ジェイミー・キンケイド
2番目の弟で9歳。大胆不敵な少年だが、財布のひもは堅い。何事も複雑な方が好き。

ベシル・E・フランクワイラー
資産家の女性。顧問弁護士に対し、遺書の内容を見直そうとしていることを告げる。

内容紹介と感想

プロローグから、フランクワイラー夫人が弁護士に宛てて書いた文章がこの物語なのだということがわかります。夫人が本編にどう関わってくるのか、興味をそそられますね。

余談ですが「みんなのうた」でおなじみ、大貫妙子さんの「メトロポリタン美術館」の歌詞は、本作の影響を受けているようです。共通するキーワードを探しながら物語を読むのも面白いですよ。

最新式の家出とは

「お母さんのばか! もう家出してやる!」 リュックを抱えて思わず飛び出したものの、おなかは空くし寒いし、結局ごはんの時間に帰宅。そんな経験、ありませんか?
クローディアに言わせれば、こんなのは「むかし式の家出」なのだそうです。

クローディアは4人きょうだいの一番上。お姉ちゃんだからとお手伝いさせられることや、同じ毎日を繰り返すことにうんざりしており、入念に家出の準備を始めました。
旅行の計画を立てるのがわくわくして大好きだって人、いますよね。クローディアもそういうタイプかもしれません。

前回紹介した『エーミールと探偵たち』の主人公とは違い、もともと都会っ子の彼女。都市部は人が多く隠れるのに最適だということや、お金がかかるということをよく心得ています。おやつを我慢して交通費を確保し、地理の研究もばっちりです。

また、3人の弟のうち同行者として白羽の矢が立ったのはジェイミー。ユーモアがあるだけでなく、お小遣いを貯め込んでいる(それどころか、とある方法で増やしてさえいる)のもポイントです。

水曜:いざメトロポリタン美術館!

ついに決行の時が来ました。おけいこの日、二人はバイオリンとトランペットのケースに着替えやラジオをつめ込み、そのまま美術館へ。トイレに隠れて閉館時間をやり過ごし、家出最初の夜を迎えます。

ここで、普段は優等生のお姉ちゃんから意外な提案が出て、にやりとするジェイミー。こういう特殊な状況だからでしょうか。秘密を共有する者同士の不思議な連帯感、仲間意識が芽生えてきたのです。

映画『ナイト ミュージアム』のように展示品が動き出すことは当然ありませんが、そうでなくてもミイラだのがいるわけですから、怖いような、楽しいような……。お化け屋敷に入ったみたいでドキドキします。
貸し切り状態の夜の美術館での探索、実際には無理だからこそ少しあこがれますよね。

木~土曜:天使の像の展示と情報収集

木曜から展示が始まった天使の像は、なんとミケランジェロ作の可能性があるとのこと。像に惹きつけられたクローディアは、その謎を探ろうとやっきになります。

ついにフランクワイラー夫人の名前が登場。忘れ物の新聞によると、この像はイタリアの美術商→夫人→画廊→美術館という流れでここまでやって来たのです。

中盤のストーリーは、互いに文句ばかり言いつつも「ジェイムズ卿」「クローディア姫」と呼び合うなど、何だかんだ仲良しなきょうだいの姿がいいですね。ホームシックとはまるで無縁な二人は、せっせと情報収集に励むのでした。

日~火曜:大発見?

天使の像と一つ屋根の下にいる特権を活かし、クローディアはある発見をしました。美術館に報告しようと、いったん匿名で手紙を出すことにします。

思えばずいぶん長い家出になりました。親に腹が立った、少しの間だけ面白いことができればいい、適当なところで帰る。最初はそんな軽い気持ちだったのに、クローディアの今の最重要事項は「ちがったじぶんになる」ことでした。

彼女がなぜそんなにも懸命になるのか、わからなくもありません。そう、それはきっと多くの人が心のどこかで願っていること。クローディアの場合、そのカギを握っているのがあの天使だったのです。

水曜:フランクワイラー夫人宅へ

待ちに待った美術館からの返事。その内容にクローディアはひどくショックを受けます。失望した彼女は家出を打ち切ろうとしますが、最後にひとつ案が浮かびました。像のかつての持ち主であるフランクワイラー夫人を訪ねるのです。

そして、美術研究家でもある夫人とクローディアたちは「取引」をします。

クローディアの望みは叶えられました。途中、彼女が想像していたような女英雄になんてならなくてもよかったのです。彼女と夫人の考え方には似たところがあり、夫人との対話を通してクローディアは自分が本当に求めていたものが何であったのかを理解します。クローディアにとっての一番の冒険は、最初から最後まで一貫して「秘密」でした。

木曜:家出の終わり、秘密の秘密

夫人宅で新聞を読み、両親が半狂乱になって探しているという事実を今さらながら知ったきょうだい。ちゃんと手紙も書いたし心配することなかったのに、というのがクローディアの言い分です。しかし、大人になってから彼女がこの出来事を振り返ったら、まったく異なる感想を抱くことでしょう。夫人流に言うと、知識ではなく「経験」が現時点ではまだ足りていないのですね。

さて、秘密を共有するチームにフランクワイラー夫人が加わり、ここにまた奇妙な、そしてとても深い絆が生まれました。

車で家に送ってもらう途中、クローディアたちはさっそく新しい計画を立てます。ひとつは夫人のところにまた遊びに行くこと、もうひとつは夫人本人にもないしょ。これがとってもすてきなアイデアなのです。

ところが、こと秘密に関しては夫人の方が一枚上手でした。偶然も重なって彼らの計画はばればれ。そのうえ夫人はまだ秘密を持っているのです──それもクローディアたちが耳にしたら驚くこと間違いなしの。

天使の像は本当にミケランジェロの作品だったのかという点も含めて、このあたりは実際に読んでからのお楽しみ。

今まさに大人への第一歩を踏み出そうという女の子が主人公の本作。「秘密」が持つ魅力に満ちた、児童文学の名作と呼ぶにふさわしい物語です。