将棋×ミステリー×アドベンチャー『千里の棋譜』

ゲーム
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『千里の棋譜~現代将棋ミステリー~』は、将棋を題材にしたアドベンチャーゲーム。元はアプリゲームでしたが、2020年2月に家庭用ゲーム機向けにリメイクされ、ボリュームアップして再登場しました。

現在では、Nintendo SwitchとPlayStation4、PC(SteamおよびDMM GAMESで購入可能)でプレイすることができるほか、同内容のiOS/Android版もリリースされています。

シナリオは、『人形の傷跡』などの名作を輩出してきたChild-Dreamの宮下英尚氏。
印象的な音楽の数々は、『逆転裁判』シリーズにも携わっている岩垂徳行氏による作曲。

また、監修の高橋道雄九段、副監修の香川愛生女流三段は、作中キャラクターとしても出演されているので、そちらも注目ポイントです。

※当該記事中の段位等については、2020年7月現在のものです。

イントロダクション

取材のため、将棋連盟会長宅を訪れた歩未と長野。中に入ると、部屋が荒らされており、会長が倒れていた。会長は事件を想定していた節があるのだが、この件について口外しないよう歩未たちに要求する。

同日、将棋界の大手スポンサーであるサイバーテレビが、AIとトップ棋士の対局「最終王者戦」を持ちかけてくる。ところが、指名を受けた翔田名人の所在がつかめない。

コンピュータと人間、その最終決戦の行方は?
そして、一部の棋士の間でまことしやかにささやかれる「千里眼」とは一体何なのか?

主な登場人物

一ノ瀬 歩未(いちのせ あゆみ)
フリーの記者。幼なじみの長野に取材協力を仰ぐ。将棋の知識は乏しいが、長野らとの関わりの中で興味を持ち始める。

長野 圭(ちょうの けい)
奨励会三段。プロになるべく上京したため、歩未とは小学校以来の再会となる。リーグ戦の真っただ中なのだが、成績はかんばしくない。

雪村 香蓮(ゆきむら かれん)
奨励会三段。女性初のプロ棋士を目指しており、世間から注目を集めている。龍王峡で川に飛び込むところを目撃されるが、その真意は……?

永峰 國雄(ながみね くにお)会長
将棋連盟会長。歩未に調査を依頼するが、事を大きくしないよう根回しするなど、不自然な行動が見られる。

高橋 道雄(たかはし みちお)九段
アニメ好きのベテラン棋士。会長から事件が起こる可能性をほのめかされていた。歩未たちに協力的な数少ない人物。

森方 征一郎(もりかた せいいちろう)九段
長野の師匠。スター棋士の一人で、翔田名人とは長年ライバル関係にある。事件を深追いしないよう歩未に警告する。

翔田 真(しょうだ まこと)名人
14歳で史上最年少のプロとなった棋士。長野がプロを目指すきっかけを与えてくれた人物でもある。現在行方不明。

蘇我 公雄(そが きみお)局長
サイバーテレビ局長。「最終王者戦」の発案者。話題性を狙っているだけでなく、執念のようなものが垣間見える。

※上記には、追加キャラクターは含めていません。

内容紹介と感想

本編は二部構成となっており、テーマはそれぞれ「千里眼」と「神隠し」です。
第一部をクリアすると、第二部ほか追加要素がプレイ可能になります。ここでは主に第一部の内容を紹介しています。

ストーリー

序盤の主な目的は、消えた翔田名人の捜索。中盤以降、将棋界でタブー視されている謎の存在「千里眼」に関する掘り下げが行われ、終盤の最終王者戦へ向けて物語は大きく盛り上がりを見せていきます。

二転三転するストーリーに最後まで目を離せません。第一、第二の事件の犯人がわかる6月5日の展開は、とりわけ衝撃的でした。

江戸時代の家元制度下における研究。約50年前に行われた、プロ棋士と真剣師の頂上決戦。そして、現代のコンピュータ将棋。それらが時を越えて絶妙に結びつき、物語の軸を構成しています。

将棋について詳しくなくても楽しめる本作ですが、対局シーンに関して言えば、やはり知識がある方がぐっと面白さが増すでしょう。作中に出てくる対局がどれほどすごいものなのか、私のレベルではピンと来ないのが残念でした。

ただ、本編はミステリー要素の割合が大きいため、対局シーンがたくさんあることを期待してプレイすると、人によっては肩透かしを食らうことになるかもしれません。

なお、将棋未経験者に配慮した構成になっている第一部に比べ、第二部は序盤から対局や検討の場面が多くなっています。

棋士たちのドラマ

各人の思惑が交錯し、熱い戦いと人間ドラマが繰り広げられる点は、本作の見どころのひとつです。

長野―崖っぷちの奨励会三段

スランプ気味で、プロになれるかどうかの瀬戸際にいる長野。奨励会(プロになる前の養成機関のよう場所)を退会しなければならない年齢も近づいています。

映画化もされた『泣き虫しょったんの奇跡』の作者・瀬川晶司六段は、奨励会退会後にプロ編入試験を受けていらっしゃいますが、このルートでプロになるのはかなりイレギュラー。本当に厳しい勝負の世界なのだと感じます。

香蓮―初の女性プロを目指して

長野と同じく奨励会に所属している香蓮は、自分がプロ棋士になることで世の女性にもっと将棋に興味を持ってもらいたい、と考えています。

「あれ? 女性のプロもいるよね?」と思われた方も中にはいるかもしれませんが、現在将棋界で活躍されている女性のみなさんは「女流棋士」なんですね。

学校でたとえるなら、「女流棋士制度」は女子校。「棋士制度」は共学だけれど、今のところ在籍している女子がいないので、実質的に男子校状態といったところでしょうか。

翔田―さらなる高みへ

最強の名人と名高いだけあって、見据えている次元が違いましたね。詳細は伏せますが、その目的について聞いたとき、漫画『ヒカルの碁』を連想しました。

その他のキャラクターも、将棋に対して強い信念と情熱を持って行動している人物ばかりで、みな魅力にあふれています。

将棋の世界への案内

本作が製作された目的のひとつには、将棋の普及があるそうです。実際、主人公の歩未は将棋初心者の記者ということで、将棋の世界への案内人としての役割を上手く担っていました。「みんなを魅了する将棋についてもっと知りたい」という思いを抱くようになった歩未。彼女といっしょにプレイヤーの興味もどんどん深まっていきます。

本編中には詰将棋を解くシーンがありますが、相棒キャラクターにおまかせすることもできる親切設計なので、「駒の動きもよくわからない」という方もご心配なく。また、丁寧な用語集がついており、プレイ中に逐次チェックすることも可能です。

また、タイトル画面から選択できる「将棋の森」には、「将棋教室」と「詰将棋」のコーナーが。「将棋教室」では、駒の動きをはじめとする将棋の基本を学ぶことができるだけでなく、ゲームの進行に応じて本編中の棋譜の詳細も見られるようになります。

初心者でも取り組みやすく、かつ実戦的な詰将棋は、おすすめの練習方法です。
作中で香蓮が歩未にプレゼントしていた「どうぶつしょうぎ」も、将棋入門として大人気ですね。今はアプリ版もリリースされています。

実在の棋士たち

「探偵棋士みっち」としても活躍する高橋道雄九段のほか、香川愛生女流三段、高見泰地七段、糸谷哲郎八段、山口恵梨子女流二段、高橋和女流三段、さらには加藤一二三九段も登場。どこでどのように関わるかは、実際にプレイしてからのお楽しみ。

用語集を見ると、ニックネームや好きなものなど、棋士のみなさんに関する豆知識も得られて面白いですよ。

ただ欲を言えば、絵柄はもう少し統一感を持たせてほしかったかも……。

登場人物や事件のモデル

作中でモデルが明言されているのは、大山康晴十五世名人→泰山十五代名人、升田幸三実力制第四代名人→枡田十段など。特に泰山名人は、千里眼関係のキーパーソンです。

枡田十段のモデルである升田氏は、破天荒・豪放磊落な人物として知られ、棋士に限らず、今時なかなかお目にかかれないタイプだったようですね。

本作では、升田八段(当時)による対局拒否事件「陣屋事件」を再構成してストーリーに組み込んでいます。

陣屋事件--升田の夢が現実になったとき【升田幸三特集 第3回】|将棋コラム|日本将棋連盟
升田幸三実力制第四代名人は、第1期王将戦で木村義雄

また作中では、「真剣師(しんけんし)」の一族が暗躍していました。真剣師というのは、賭け将棋で生計を立てていた人々のことで、戦後しばらくは多数存在したそうです。

このほか、第二部で登場する北条草太は、名前や13歳で奨励会三段という設定からして、明らかに藤井聡太棋聖を意識したキャラクターですね。

史上最年少でのプロ入りとデビュー後の連勝記録更新で世を沸かせた藤井聡太棋聖。それから3年ほどしか経っていないというのに、今やタイトルホルダーです。時に現実はフィクションを上回ることがあり、驚かされます。

おわりに

オリジナルアプリ版でプレイした際は、すべて相棒に任せっきりだった本編中の詰将棋。
その後、飯野健二八段の『1・3・5手 実戦型 詰将棋』で練習をし、リメイク版では自力でチャレンジ。どうにか正解に至ることができ、達成感を味わえました。まめに練習できていないせいで、三歩進んでは二歩下がっているかのような現状ではありますが、それでも多少は進歩したようです。

本作は、私のような将棋未経験者・将棋初心者にこそ一度プレイしていただきたいと思う作品です。新しい世界が開けるかもしれませんよ。
何はともあれ、「千里の道も一歩から」ということで。