近現代文学史における著名作家とその作品を紹介するページです。(随時更新)
江戸川 乱歩(1894-1965)
代表作:明智小五郎シリーズほか
国内における探偵小説の先駆者。『怪人二十面相』等の子ども向けシリーズも人気ですね。ペンネームは、近代探偵小説の原型をつくったとされるエドガー・アラン・ポーからとられています。
金田一耕助シリーズで知られる横溝正史とは、友人兼ライバルの間柄です。
〈作品紹介〉
『人間椅子』(1925)
大きな椅子に細工を施し、その中に身を隠すというアイデアを思いついた職人の男。椅子として過ごすうちに、購入者の婦人に想いを寄せるようになるが……。
『押絵と旅する男』(1929)
私が夜汽車で出会ったのは、押絵に話しかける奇妙な男で……。幻想的な雰囲気の漂う一篇です。
〈関連サイト〉
- 江戸川乱歩館(三重県鳥羽市)
- 立教大学大衆文化研究センター/旧江戸川乱歩邸(東京都豊島区):東京で20回以上の引越しを繰り返した乱歩。その最後の住まいは、現在立教大学に移管されています。
宮沢 賢治(1896-1933)
代表作:『春と修羅』『注文の多い料理店』ほか
独創性に富んだ作風で知られる童話作家・詩人。盛岡高等農林学校(現・岩手大学農学部)の卒業生で、農業指導と並行して創作活動をしていました。終生日蓮宗を信仰しており、作品にも影響が見られます。
〈作品紹介〉
『銀河鉄道の夜』
孤独な少年ジョバンニと友人カムパネルラが、銀河鉄道に乗って星の世界をめぐる幻想的な物語。作者の没後に発見・出版された小説で、決定稿のない未完の名作です。
〈関連サイト〉
- 宮沢賢治記念館・イーハトーブ館・童話村(岩手県花巻市)
- もりおか啄木・賢治青春館(岩手県盛岡市)
- 石と賢治のミュージアム(岩手県一関市):賢治は鉱物の採集が趣味で、子どもの頃は「石っこ賢さん」と呼ばれていたほどでした。
尾崎 翠(1896-1971)
代表作:『こほろぎ嬢』『第七官界彷徨』ほか
鳥取生まれの小説家。『第七官界彷徨』が再発見された後、あらためて注目を集めるようになりました。
〈作品紹介〉
『歩行』『地下室アントンの一夜』(1931・1932)
ヒロイン小野町子を巡る恋愛模様を綴った連作短編。想い人のことを忘れようと努める少女の葛藤と、その少女に恋する若者の詩人としての危機が描かれています。
〈関連サイト〉
井伏 鱒二(1898-1993)
代表作:『山椒魚』『黒い雨』ほか
尊敬する森鴎外に似たかっちりした文章に加え、庶民寄りの目線が特徴です。
私が昔よく読んでいた『ドリトル先生』シリーズの訳者でもあるという事実に気がついたのは、大人になってからのことでした。
〈作品紹介〉
『ジョン万次郎漂流記』(1937)
直木賞受賞作品。リアリティあふれる歴史小説で、幕末から明治にかけて活躍した国際人・中浜万次郎の波乱万丈な人生を精緻に描き出しています。
〈関連サイト〉
- ふくやま文学館(広島県福山市):常設展示に「井伏鱒二の世界」があります。
横光 利一(1898-1947)
代表作:『日輪』『機械』ほか
川端康成とともに雑誌「文芸時代」を創刊、新感覚派として文学運動を行いました。のちに新心理主義に転回。
〈作品紹介〉
『日輪』(1923)
邪馬台国成立前夜の物語。卑弥呼と彼女をめぐる王たちの攻防を描いており、独自の卑弥呼象は読み手に新鮮な印象を与えます。
『機械』(1930)
「四人称の設定」を取り入れた、新心理主義路線の実験小説。小林秀雄が「世人の語彙にはない言葉で書かれた倫理書だ」と評した短編です。
〈関連サイト〉
川端 康成(1899-1973)
代表作:『伊豆の踊子』『雪国』『山の音』ほか
日本人初のノーベル文学賞受賞者。長編小説だけでなく、「掌(たなごころ/てのひら)の小説」と呼ばれる短編も数多く書いています。
〈作品紹介〉
『古都』(1961~62連載)
祇園祭の夜、呉服問屋の一人娘・千重子は自分に瓜二つの村娘・苗子と出会い……。異なる環境で生きてきた双子姉妹の運命と、京都の四季折々の美しさを描いた抒情的な作品。
なお、川端は画家の東山魁夷と親交があり、文化勲章受草記念に「冬の花」、ノーベル文学賞受賞記念に「北山初雪」と題した絵を贈られています。北山杉をモチーフとする「冬の花」は、『古都』の章タイトルにちなんでいるのだそうです。
【参考】川端康成『古都』あとがき(新潮文庫)
〈関連サイト〉
梶井 基次郎(1901-1932)
代表作:『檸檬』『城のある町にて』ほか
20歳の時に発病した肺結核は、その後の生活や文学活動に大きな影響を及ぼしました。療養先の伊豆湯ヶ島温泉では、川端康成や萩原朔太郎、宇野千代らと知り合うことに。
鋭い感性が光る梶井の作品群は、死後に高い評価を受けるようになります。
〈作品紹介〉
『Kの昇天』(1926)
月夜の海で、Kはなぜ溺死するに至ったのか? 月や影・ドッペルゲンガーを扱っており、幻想的な要素の見られる作品です。
『桜の樹の下には』(1928)
「桜の樹の下には屍体が埋まっている」のフレーズで有名な掌編。
『闇の絵巻』(1930)
湯ヶ島時代の体験を素材とした短編小説。湯本館滞在中の川端康成を訪ねた帰り道の様子がベースとなっています。
坂口 安吾(1906-1955)
代表作:『堕落論』『白痴』ほか
小説だけでなく、大胆かつ特異な文明批評でも知られる人物。新戯作派・無頼派と呼ばれました。
探偵小説・推理小説好きで、自分でも『不連続殺人事件』等の推理小説を執筆しています。
〈作品紹介〉
『桜の森の満開の下』(1947)
人を惑わす美しい桜の森がある鈴鹿峠。そこに住みついた山賊と、彼がさらってきた美女との間で繰り広げられる怪しくも哀しい愛の物語。
〈関連サイト〉
- 坂口安吾デジタルミュージアム
- 安吾 風の館(新潟県新潟市)
中島 敦(1909-1942)
代表作:『山月記』『李陵』ほか
儒学者の家系で幼少時から漢学に親しんで育ちました。国語の教科書でおなじみの『山月記』以外にも、中国古典を題材とした作品が多く見られます。
〈作品紹介〉
『悟浄出世』『悟浄歎異』(1942)
自意識過剰でネガティブなインテリ・沙悟浄を主役に据えた西遊記異聞。『山月記』の李徴同様、沙悟浄にも作者自身の内面が反映されていると考えられます。
『文字禍』(1942)
古代メソポタミアの図書館で、文献を調査していた老博士は奇妙な体験をし……。初期短編の一つで、一般にゲシュタルト崩壊として知られる現象が登場します。文字媒体が人間に及ぼす影響について書かれており、古代を舞台にしているものの、テーマは非常に現代的です。
〈関連サイト〉
- 神奈川近代文学館(神奈川県横浜市)「中島敦文庫」をコレクションとして保存しています。
太宰 治(1909-1948)
代表作:『走れメロス』『富嶽百景』『人間失格』ほか
新戯作派・無頼派と呼ばれるひとり。作品の傾向は、退廃的な前期・後期、明るめの中期(結婚して比較的生活が安定していた頃)に大きく分けられます。
芥川龍之介の大ファン。また、井伏鱒二に長く師事していました。
〈作品紹介〉
『駈込み訴え』(1940)
「私」が師である「あの人」についての不満を訴える愛憎入り交じったストーリー。聖書を題材にした短編小説です。
〈関連サイト〉
- 太宰治記念館「斜陽館」(青森県五所川原市)
加藤 道夫(1918-1953)
代表作:『なよたけ』『思い出を売る男』ほか
劇作家。代表作の戯曲『なよたけ』は、作者の存命中に完全版が上演されることはありませんでした。
なお、加藤道夫が強く影響を受けた人物には、フランスの作家ジャン・ジロドゥーのほか、民俗学者・折口信夫がいるそうです。そう言われてみれば、『なよたけ』は『死者の書』と似た雰囲気があるようにも思います。
〈作品紹介〉
『なよたけ』(1946)
『竹取物語』が生まれた過程にスポットライトを当てた作品。竹の精のように美しい少女「なよたけ」に恋をした文学青年・文麻呂は、ついには身を亡ぼすことに……。
安部 公房(1924-1993)
代表作:『壁―S・カルマ氏の犯罪』『砂の女』ほか
シュルレアリスムの手法や、前衛的かつ不条理な状況設定を用いた作風が特徴的。生前はノーベル文学賞に最も近い日本人作家と目されていました。
〈作品紹介〉
『砂の女』(1962)
砂丘へ昆虫採集に出かけたところ、砂穴の底から脱出できなくなってしまった男。四方を砂に囲まれた一軒家で女主人と暮らし始めるが……。
『箱男』(1973)
ダンボール箱を頭からかぶり、見られること・帰属することを放棄して都市をさすらう「箱男」の物語。実験小説としての側面も強い長編です。