ゲームで裁判員体験!『有罪×無罪』

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『有罪×無罪』は、2009年にバンダイナムコから発売されたニンテンドーDSのゲーム。
一昔前の作品ではありますが、推理ゲーム好きの方には一度はプレイしてみてほしい、隠れた名作です。

概要

本作のジャンルは「裁判員推理ゲーム」。プレイヤーは裁判員の一人となって評議を重ね、真相解明を目指します。

ちょうど日本で裁判員制度が導入された時期に製作された作品であり、元検事総長等が監修にあたっているだけあって、全体的に真面目なつくりとなっている点が特徴です。

収録されているのは、独立したエピソードが4つ。現実にもありそうな動機や事件が多く、各話のタイトルもワイドショーや週刊誌の見出し風になっています。

ストーリーは、裁判関係の豆知識も交えつつ、次のように順を追って進みます。

  • 公判:尋問等を通して主に情報収集をするパート
  • 評議:証言や証拠品を確認しつつ話し合いをするパート
  • 最終評決:被告人は有罪か無罪か、有罪ならば量刑(刑の種類や程度)をどうするかを決めるパート

本作の醍醐味はやはり評議。実際に話し合っている感じがよく出ており、ここが他作品にはない魅力となっています。

ただ、こうした地味な進行スタイルは、同じく裁判をモチーフとしている『逆転裁判』シリーズのようなテンポのよさ、コミカルさを求める人には合わないかもしれません。

また、セーブデータを1つしか作成できないのはやや不便に感じました。

主な登場人物

法曹三者

4つのエピソードすべてに共通して登場する人物は、裁判官・検事・弁護士のみです。

  • 井原 兼行(57):優しさと厳しさを兼ね備えた裁判長。若手からの信頼も厚い。
  • 飯野 光雄(38):中堅判事。ファクター(議題)のまとめ役。新婚家庭らしい。
  • 榊 綾香(28):若手判事補。常に冷静だが、女性裁判員に共感を示すことも。
  • 荒牧 元治(38):中堅検事。立証技術に定評があり、厳しい追及姿勢をとる。
  • 平本 信一(45):東京弁護士会所属の弁護士。被告人に寄り添った弁護を行う。

個性豊かな裁判員たち

プレイヤーは苗字(エピソードごとに変更可)と性別を設定し、毎回初めて裁判員として選ばれたという体で評議に参加します。

各話に登場する仲間の裁判員たちは、老若男女バランスよく配置されていました。

メンバーの中には、裁判に関わることに腰が引けている人や、一見すると軽いノリの若者などもいます。しかし、最終的には各人が自分なりに考え意見を出し、懸命に取り組んでくれるようになるため、好印象。このため、判決後にはみんなと別れるのに一抹の寂しさを覚えるほどでした。 

また、人物ファイルを読むと、その裁判員が評議中になぜそのような発言をしたかの背景(被告人と自分の家庭を重ねて見ているなど)がうかがえて、面白いですよ。考えてみれば当たり前のことですが、裁判員それぞれにもドラマや人生があるのですね。

エピソード

各事件には、ネットいじめなど社会問題も多く取り入れられています。

無罪であっても被告人に全く非がないわけではなかったり、有罪であっても同情の余地があったりと、どのエピソードも考えさせられるところがありました。しかしどんな結果であれ、関係者の再出発はやはり応援したいと思えるものです。

鬼嫁放火殺人事件

荒牧検事の発言「おかしいじゃない!」が妙にインパクトを残す第1話。チュートリアルとしての側面もあってか、難易度は比較的易しめに感じます。

事件内容は、1階の台所から火が上がり、2階で昼寝をしていたお姑さんが亡くなったというもの。被告人は現住建造物等放火および殺人の罪に問われていますが、弁護側は容疑を否認し、失火であると主張しています。

ここで井原裁判長から再三注意されるのは、予断や偏見を持つべきではない、ということ。この事件でも被告人を犯人と決めつけてセンセーショナルな報道がなされていますが、逮捕された=犯人ではないのです。

ただし、実際の日本の刑事裁判では、起訴された場合99.9%有罪判決が出るそう。検察側は「これは行ける!」と判断した上で起訴するため、このような数値になるようです。フィクションではポンコツに描かれることも多い警察も、現実の捜査ではそうそう見落としなんかしないだろうし……と言い出すと、もちろんゲームにならないんですが。

大学教授保険金殺人事件

薬学部の教授が研究室で青酸カリを飲み、亡くなりました。同僚でもある助教の妻に殺人容疑がかかりますが、彼女は夫の自殺ではないかと言っています。

第1話の被告人は感情的な若い女性でしたが、今回の被告人は逆に表情に乏しいタイプ。第3話以外は事件関係者に夫婦と姑(もしくは舅)が登場しており、対比になっているのかもしれませんね。

保険金の額について、それを多いとみるか少ないとみるかは人によって異なるという話題になったところで、私は何となくアガサ・クリスティーの『葬儀を終えて』を思い出しました。評判の良いポアロシリーズのひとつですので、この場を借りてあわせておすすめしておきます。

この第2話でよかったと感じたのは、判決後の裁判員同士の会話。ぐっと来るものがありました。また金髪の青年・新庄さんに関しても、衝撃の事実(というほどでもないですが)が発覚。ちなみに彼は次の話で再登場を果たしており、法曹関係者以外で唯一複数のエピソードにまたがって顔を出すキャラクターとなっています。

泥酔社長危険運転致死事件

第3話の被告人は、デザイン会社の社長。彼女が乗る自動車が接触事故を起こし、対向車のドライバーが病院に搬送された後、亡くなりました。飲酒運転であるとみられていますが、弁護側は同乗者(部下)による偽装工作があったと考えています。

被告人自身は酔っぱらっていて記憶があいまい、深夜の事故であり目撃者はなし、それゆえ部下一人の供述に依存せざるを得ないという特殊な事件です。私はてっきり足跡トリックが要かと思ったのですが……。

ここでは、榊さんの「目で見て耳で聞く審理」という言葉が印象に残りました。被告人の人生を左右する裁判に関わるわけですから、これはとても大切なことですね。

ちなみに今回は、ショップ店員の莉緒ちゃんから始終ちゃん付けで名前を呼ばれることになります。第4話に登場する「南ちゃん」のように、下の名前でも違和感のない苗字を設定しておけば、よりフレンドリーな気分を味わえるかも?

学院理事一家連続殺人事件

2008年12月24日、名門私立女子高校の生徒が校内で亡くなりました。過去には学校裏サイトに中傷が書き込まれるなどのトラブルが起きており、いじめを苦にしての自殺であったようです。
そのちょうど1年後、学院の理事およびその息子の妻が自宅で何者かに殺害されます。被告人は、いじめの件で学院側の対応に不満を募らせていたという、女子生徒の兄。世間は妹の復讐に違いないと騒ぎ立てていますが……。

最終話は、被害者が複数いる上に行方不明の凶器があるという込み入った事件。このエピソードがなければ、本作はそこまで高い評価を得ていなかったのではないでしょうか。新事実の発覚に証人の逃亡と波乱に満ちた審理が続き、最後にはそんじょそこらのホラーよりよほど怖い展開が待ち受けています。

真相を知り、あんなラストではすっきりしない、と不満を抱く方も中にはいるかもしれません。しかし、あえて司法制度を万能なものとして描かなかったところに、私はかえって好感を持ちました。

第2話でも、井原裁判長が「完璧な制度など、おそらく無い」、だからこそ「人や時代とともに制度を変えていく努力は、常に必要」だと話していました。こうした言葉に象徴されるように、本作は作り手の真摯な姿勢を感じる、総じて硬派な作品だと言えると思います。

SIMPLE DSシリーズ『THE 裁判員』との比較

『THE 裁判員 〜1つの真実、6つの答え〜』(SIMPLE DSシリーズ Vol.48)は、『有罪×無罪』と同時期に発売された裁判員ゲーム。こちらも良作です。しかし、私がそうだったのですが、『有罪×無罪』路線を期待してプレイすると「あれっ?」となってしまう可能性があるため、その点は注意が必要です。

個人的に物足りなく感じたのはゲーム性。本作の評議パートでは各裁判員に「説得率」が設定されています。その人が興味を持っていそうな話題をふりつつゲームを進めていくことになるのですが、『有罪×無罪』のように全員で議論している雰囲気があまり出ていないのが残念でした。

こうした説得率がある以上、当然説得するのが難しい人物というのも登場します。要は極端な意見の持ち主です。ゲーム内とはいえ、ひどい意見を耳にするのはやはり気分のよいものではなかったですね……。

また、本作は一種の倒錯ミステリーで結論ありきのところがあるため、被告人が有罪か無罪かわからない方がドキドキしてよい、という方向きではないかもしれません。

対して良いと思ったのはシナリオ。本作では、幽霊が裁判員に憑依するというファンタジー要素を取り入れることで、主人公が複数の裁判に関与することを可能としています。横軸のストーリー(各話の裁判)と縦軸のストーリー(主人公を殺害した犯人の正体に迫る)が交錯するため、プレイしていて非常に先の展開が気になりました。

クーデター等の大規模な事件を扱っているのもゲームならではで、特筆すべき点でしょう。リアリティ重視で罪状のパターンが限られていた『有罪×無罪』との大きな違いです。

このように『有罪×無罪』と『THE 裁判員』は裁判員制度というモチーフが同じなだけでゲームの方向性は全く異なります。ありきたりな結論になってしまいますが、どちらの作品を面白いと思うかはその人の好み次第、ということですね。