宗田理『ぼくらの七日間戦争』

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今回紹介する『ぼくらの七日間戦争』は、2018年『小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙』第8位にランクインしたほどのロングセラー作品です。角川文庫版のほか、角川つばさ文庫、ポプラ社からもシリーズが刊行されています。

最初の出版が1985(昭和60)年ですから、当時中学生だった方は現在50歳手前くらいですね。時事ネタも多いので、今なお広く読まれているのがやや意外ではあります。が、時代を超えて共通する子どもの心の声、「かっこいい」子ども像というものが根底にあるのでしょう。

メディアミックス展開としては、宮沢りえさん主演の映画が有名です。今後、アニメ化の予定もあるとのことで、みなさん楽しみにされていると思います。 

あらすじ

1学期の終業式、まったく帰宅する様子を見せない1年2組の男子たち。彼らは工場跡を「解放区」とし、大人たちへの反乱を起こしたのだ。やがて事態は、テレビ局がやってくるほどの大騒動になってしまう。
一方、本物の誘拐事件が同時発生。1年2組は総出で救出作戦を決行する。
少年探偵団vs誘拐犯、生徒vs教師、子どもvs大人、その行方やいかに?

主な登場人物

  • 菊地英治:勉強よりサッカーを愛する主人公。親との約束をすっぽかし、解放区に参戦。
  • 相原:解放区の発案者でリーダー格。両親は全共闘運動の経験者である。
  • 中尾:小柄なめがね少年。ろくに勉強していないのに成績優秀な天才肌。
  • 柿沼:産婦人科医の息子で英治の幼なじみ。誘拐されるが、暗号で助けを求めてくる。
  • 谷本:酒井の体罰が原因で療養中。機械に強く、外部から解放区をサポートする。
  • 純子:母親が柿沼病院に入院中なのを利用し、情報収集で活躍する。英治と親しい。
  • 久美子:親に反抗しているスケ番。父親は堀場建設社長で政界進出を狙っている。
  • 瀬川:工場跡に住み着いている元社員で家出老人。解放区のアドバイザーとなる。
  • 榎本:退職が近い校長。解放区の存在が再就職に響くことを心配している。
  • 酒井:通称トド。暴力的な体育教師で嫌われ者。力で無理やり生徒を従わせてきた。
  • 西脇:生徒からの人気が高い保健室の先生。ひそかに解放区に差し入れをしてくれる。

内容紹介と感想

一日目:宣戦布告―籠城の始まりとまさかの誘拐事件

集団誘拐を疑い始めた親たちの耳に、FMミニ局を利用した「解放区放送」が聞こえてきます。
子どもだけの世界をつくる。相原のアイデアで2組男子はそう決めたのです。高揚とした気分にひたる英治たち。ところがただ1人解放区に現れなかった柿沼が、本当に誘拐されていたことが発覚します。

「解放区」の発端と、物語のもう一つの軸である誘拐事件について語られる1日目。食糧も運搬済みで準備万端、ラジオ放送も開始するなど、この時点で行動力と技術力がすさまじい。ドキドキ・ワクワクの7日間の幕開けです。

二日目:説得工作―メンバー増員と対PTA戦

「おとなの落ちこぼれ」だという瀬川老人と遭遇。元軍人である瀬川は、戦術と戦略の違いを語ります。さらに、佐竹弟(小学5年生)とタロー(犬)も特別参加を許され、戦力が増強されました。その後、両親や学校の先生たちが説得に現れます。

本作に登場する大人にはデフォルメされた滑稽さがあり、小動物系男子・宇野の過保護な母親などはスネ夫ママを連想させます。その一方で、「無自覚ながら将来起こる危険を察知した子どもたちが、本能で動いているのではないか?」と考える相原父のような人物もいます。

当時は詰め込み教育の時代でしょうか。作中でも勉強に力を入れている家庭は多そうです。しかし、塾通いして一流大学に進み、一流企業に入って将来安泰であったかというと……。相原父の意見は、今の厳しい現実を予期しているかのようです。

三日目:女スパイ―2組捜査網とテレビ中継

柿沼の手紙のコピーを見た中尾は、瞬時に暗号を解いてしまいます。柿沼の監禁されている場所の候補が狭まり、2組女子による捜索がスタート。また、この日はテレビリポーターもやってきて、その前で酒井に一泡吹かせることに成功します。

この対酒井戦と物語の終盤では、プロレスファンかつアナウンサー志望・天野の実況風のしゃべりが冴えわたります。

全共闘世代のリポーターは早合点して勝手に感極まっていますが、英治たちには明確な思想なんてものはありません。親や学校に対する反発、勉強漬けの毎日への不満、なんとなく面白いことがやりたい、とにかく何かやりたい。そんな気持ちで動き始めました。

その点で印象深いのは、英治と勉強家の小黒がペアを組んで見回りをする場面です。クラスメイトと距離を置いていた小黒が、ここで意外な本心を吐露します。彼は解放区において大きな変化を見せた1人となりました。

四日目:救出作戦―誘拐犯退治と身代金請求別案

英治とアグレッシブな行動派・安永、佐竹弟、タローが柿沼を助けに向かいます。警察に先んじて柿沼の救出に成功した英治たちは、誘拐犯を解放区に連れ帰りました。

いくつもの社会問題が取り沙汰される本作ですが、誘拐犯の内情も世知辛いものでした。帰宅せず解放区に直行した柿沼は、誘拐犯にあるアイデアを提示するのですが……?

五日目:迎撃―迷路大作戦と身代金受け渡し

身代金受け渡しの実行日。警察を含めた大人たちが、解放区メンバーの考えた作戦に翻弄されます。

さらに校長、生活指導主任、担任の3人を迷路で迎え撃つことに。『かいけつゾロリ』シリーズに見られるような仕掛けの施された迷路(図解付き)での攻防は、本作の大きな見どころの一つでしょう。もうやりたい放題です。

六日目:総攻撃―大人たちの裏の顔と子どもたちのメッセージ

久美子が父親の服に盗聴器を仕込み、市長選の汚職現場の様子を解放区放送で流します。住民が大混乱に陥る中、酒井に狙われていた西脇を助け出し、解放区は仕掛け花火でメッセージを送りました。談合にいそしむ大人たちの卑小さと子どもたちの熱さが対照的です。

七日目:撤退―バイバイ、解放区

降参はしないが引き際は大切である。警察が来ると知った解放区メンバーは、戦略的撤退を決めます。それも大人たちをあっと言わせるトリックを使って姿を消すのです。

作中では校内暴力、不倫、汚職など、かなりブラックな大人の世界が描かれてきました。大人は気づかれていないつもりでいるかもしれませんが、子どもは結構察しているものです。解放区の存在は、「子どもにはえらそうなこと言ってるけど、そういう大人はどうなんだよっ」という子どもの気持ちを代弁してくれています。

おわりに

物語は一貫してテンポよく進んでいきます。「すごい!」「かっこいい!」「ぼくも真似してみたい!」という素直な気持ちで読むもよし、大人目線で子どもたちの指摘に冷や汗をかくもよし、ミステリー要素に感心するもよし。さまざまな楽しみ方ができるところが、ロングセラーのロングセラーたる所以なのかなと感じました。